アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
96
-
帰り道、正ちゃんは一言も話さなかった。
...きっと悪い事なんだな。
そう思うと気が沈む。演劇練習に参加していた人達の様子や、昨日の正ちゃんを思い出すと僕か正ちゃんに何かが有ったのは一目瞭然だ。
聞かない方が身のためかもしれない。でも、一人だけ知らないのも不安でしょうがない。
みんなの前では言い難い事だから連れて帰って来たのだと思うと知る事に恐怖さえ覚えた。
正ちゃんの部屋に着いてから少し経って、漸く正ちゃんが話し始めた。
「...昨日の練習の時、巫女棺の中で寝てただろ?」
僕がうん。と頷くと、正ちゃんは話し難そうに続ける。
「...巫女が寝てる間に、キスシーンの練習になったみてぇなんだ。...んで、」
そこまで言って正ちゃんは躊躇う。僕が恐る恐る、それで?と聞くと、正ちゃんは僕を引き寄せて抱き締めた。
「...正ちゃん?」
痛いくらいの力で抱き締める正ちゃんが、どんな顔をしているか見えない。僕の問い掛けに、正ちゃんは凄く小さな声で答えた。
「...赤城が巫女にキスした。」
正ちゃんの言葉が上手く呑み込めない。
...誰が、...誰に?
「 あっ、でも、いつも結構際どいくらいのフリだったし、みんな勘違いしたのかも!」
自分の鼓動の音がうるさい。正ちゃんに言うというよりは、そうであって欲しいと願って発した。
「...俺も、...見たんだ。」
正ちゃんの言葉はちゃんと聞こえたはずなのに、靄がかかったようにその一文を頭が受け入れない。けれど直ぐにカタカタと手が震えだした。
「...もうさせねぇ。絶対させねぇからっ!!」
そう言った正ちゃんは凄く苦しそうで、その原因が自分だと思ったら言葉を紡げなかった。
普段なら独占欲が強くて、僕がちょっと誰かに触られたり、2人きりになると感情を剥き出しにして怒る正ちゃんが、昨日から1度も僕を怒ることはおろか、文句さえ口にしていない。
不用心に棺の中で寝てしまった事を咎められてもおかしくないはずなのに、何も言われてない事が逆に不安になる。
「...なんで、...なんにも言わなかったの…?」
僕の問いに正ちゃんは何も言わずに抱き締める手に力を込めた。沈黙が続くにつれ、僕の震えは大きくなっていく。
...なにか言って、正ちゃん...。
知らず知らずのうちにギュッと唇を噛み締めていて、口の中に血の味が広がった。
「...怖かったんだ。...巫女に他の野郎を意識して欲しく無くて、...言えなかった。...ダセェよな。」
僕は自分で思っているよりも正ちゃんに愛されてる。不謹慎だけど、正ちゃんの気持ちを再確認出来て途轍も無く嬉しかった。
結局僕が気にしてたのは、赤城くんにキスされた事じゃ無く、正ちゃんにどう思われたかだ。
「...僕、正ちゃんが大好き。だから他の人に気が向く事なんてない。...嫌われたかと思って怖かったよっ、」
ハッキリ言い切った巫女に、俺はバカだったなと思った。巫女はいつだって俺しか見てない。この一年、色んな事ですれ違ってその都度お互いの気持ちを確かめ合ってきた。
「 ...だよな。分かってんのにビビっちまう...。小させぇなぁ、...俺。」
「...僕も同じだよ。直ぐ不安になっちゃう。...恋愛ってちょっと面倒くさいんだね。」
コテンっと俺の肩に頭を乗せてため息を吐く巫女に俺はちょっと焦る。巫女は然したる興味を見出だせないと直ぐに飽きる。
「...巫女都さん?...飽きちゃってないっすよね?」
「 飽きないよ...。正ちゃんと居てつまんないと思った事、物心ついてから1回も無いもん。」
...やべぇ、キスしてぇ。
衝動に駆られた俺は、巫女の身体をグッと引き離してその顔を見た。
「 おまっ!? 唇きれてんじゃねぇかっ!」
「...ちょっと噛んじゃっただけだから平気。」
苦笑気味に答える巫女の、血が滲む唇にそっと指で触れる。
...これじゃキスしたら痛てぇかな。
そう思って躊躇うと、「...チュウしたい。」そう巫女が呟いた。同じ事を同じタイミングで思ってたんだなとボンヤリ考えていたら、俺の顔を見ていた巫女の顔が歪む。
「 ...ごめん。今のやっぱなし!...ごめんねっ、」
バッと俺に抱きつき顔を隠した巫女。俺が直ぐに答えなかった事に不安になったんだろう。
俺は巫女を再度引き離して合わせるだけのキスをした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
96 / 301