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Ⅳ
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周囲の人が言うように、ロナンが、そしてあの女性が自分たちと違う世界の者だと言うことは、オドランにもわかっていた。恐らく、サウィン祭の日に開かれる冥界の扉からやってくる亡霊かなにかなのだろう。
住人たちはそれらを恐れるが、自らを排除し、軽蔑する人々に比べて彼らの方が数倍もオドランには温かい存在の様に感じられた。
「ロナン……僕を君と一緒に連れていっていよ」
ロナンと会う度、オドランはそう懇願した。だが、ロナンはいつも悲しそうに首を振るのだった。
「連れて行く事はできないんだよ。例え連れて行けたとしても、あそこはとても暗く寂しい場所なんだ。僕はいつも眠っていて、君を君だと理解することもできないかも知れない。君だって僕を僕だと理解することはできないかもしれない」
何度も繰り返された説明に、オドランは決して納得していなかった。出会った頃は、幼さゆえに、その言葉自体よく意味がわからなかった。意味がわかるようになると、暗くて寂しい場所に恐怖を覚え、それ以上食い下がることができなかった。しかし、成長するにつれ、この言葉にオドランは違和感を覚える様になる。
ロナンが別の世界からやって来ているのだろうことは、もはや確信に近いのだ。だが、ロナンの言うとおり、誰が誰だか認識出来ないような世界があるのなら、あの女性がロナンの名を知っていた事の説明がつかない。それに、サウィン祭の日以外はいつも眠っているだけなのであれば、なぜロナンはオドランと同じ様に成長しているのだろう。少年とは言ったものの、ロナンもオドランも、もう青年と言って何も問題ないほど成長していた。
しかし何故、オドランにはそれを問い詰める事ができなかったかと言うと、それは、オドランがロランを愛し始めていたからである。
ロランの言葉が真実であるとしたら、暗く寂しい場所で孤独に過ごすロランと、同じように昼夜の境も分からぬような場所に軟禁状態のオドランにとって、世界には二人しか存在しないのと同義であった。似たような二人が心を通わせるのに時間はかからない。
そんな境遇であるからこそ、特に話す様な事もなく、一年に一度、ほんの短い時間で、ただお互いの気持ちを確かめるには直接的に求め合う結果となったのは、ごく自然な流れなのかもしれない。
オドランは、その冷たい肌に触れる度に、自ら熱でロランを焼いてしまわないかと怖かった。ロランは、その温かな肌に触れる度に、自らの冷たさでオドランを凍えさせないか怖かった。いつしか、二人は、そんな危うく儚い関係を築き、お互いを深く求め合う。
もちろん、そうなったために、話す時間さえ惜しいと言う理由からロランをそれ以上追求しなかったと言うのもある。だが、それよりもロランと触れ合った事で強く伝わって来たのが、ロランも自分を大切に思ってくれているという事と、それ故に、何か重大な事を隠しているのだろうという事だった。
「もういいんだ……ロナン」
決して同じ温度になることはない胸に頬を寄せながら、オドランは小さく呟いた。小さな覗き窓から見える月は光を弱めていっている。今年も、別れの時間が近づいていた。
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