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Ⅴ
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「なにがいいの。オドラン」
中々続きを口にしようとしないオドランに対し、ロナンは眉を顰めた。別れの時は着々と迫っている。早く要件を言ってくれなければ、煮え切らないまままた一年を過ごさなければならない。
「なに。話したいことがあるのなら、ちゃんと言って」
「うん……ロナン。言うよ。きちんと言うよ……僕を……僕を君と一緒に連れて行ってくれ」
「オドラン……何度も言うけど、それは——」
「もう、いいんだロナン。君の言葉を信じていないわけじゃない。ううん。信じているからこそ、言うんだ。例え、そこが暗く寂しい場所だとしても、お互いがお互いの事をわからないのだとしても、今よりもきっと君の傍にいられるはずなんだ。それは、僕にとって今よりもずっと幸せな事なんだ」
いつになく真剣なオドランではあったな、その口調にはどこか投げやりな部分もある様だった。
「オドラン……なにかあったのか」
思いもよらない優しい声に、オドランの緑色の瞳からは涙が溢れました。
「さっきの女の子……僕の妹のエレインが結婚するんだ。これ以上、僕はここにいられない」
「結婚と言うのが、僕にはよくわからないのだけど、それで今までとなにが変わるの」
「変わらないかもしれない。でも、気づくのがきっと遅すぎた。今までだってそうだ。誰かを怯えさせたり、誰かに心配されたりしながらただ生かされる事に意味なんてなかったんだ」
オドランの言葉に、ロナンはハッと息を飲んだ。正直な気持ちを言えば、オドランが何を言っているのか、ロナンには理解出来なかった。それでも、この十数年間、自分はなにかとんでもない勘違いをしていたのではないかと言うことだけはわかった。
「オドラン……君はずっと死にたかったの」
「それは……わからない。でも、ロナンに連れて行ってもらう方がきっといいんだ。いや、最初からあの女の人に連れて行ってもらえば良かったんだ」
それを聞いて、ロナンは初めてオドランを可哀想だと思った。悲しくてどうしようもない気持ちにもなった。
「わかったよ、オドラン。でもね、僕もどうなるかわからないんだ。僕と同じ場所に行けるかもわからないし、もしかしたら、もう二度と会えなくなるかもしれない。僕はそれが怖いんだよ」
「そうだね。僕もそれは怖いよ。でも、きっと、僕には希望があるんだよ」
ロナンには、希望と言う言葉の意味もよくわからなかった。しかし、その言葉を信じてみたいと言う気持ちも湧いてきた。ロナン自身、初めからこうしたかったのも事実だ。
ロナンは一つ頷くと、オドランの首にその手を掛けた。
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