アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
存在 1
-
「遠野(トオノ)、これ運んでおいてくれ」
「はーい」
先生に言われて、教材を準備室に運んでいると。
「はーるかっ」
「わっ、…衛。痛いよ」
後ろから抱きつくように突進してきた衛。
「ごめんごめん。 ね、今日暇?」
「うん、暇だけど」
「やった。 新しいとこ見つけたんだ、付き合ってよ」
「……いいけど…飲むだけだかんね」
「おっけおっけ。 じゃまた後でなー」
手を振りながら立ち去る衛に軽くため息をつき、足を準備室に向かわせる。
相変わらずアグレッシブだなぁ、衛は。
「ど?いい雰囲気だろ?」
「うん、大人っぽい」
衛に付き合わされてやってきたここは、落ち着いた雰囲気のバーだった。
「年齢層高めだね」
周囲を見渡すと、スーツを見に纏った人が多い。
「いい人見っかるかなー」
ふふっと綺麗に笑う衛。
「ほどほどにしなよ」
「わかってるって」
品定めをするように店内に視線を巡らせる衛に、思わず苦笑い。
そう、ここはゲイがよく訪れる店。
衛が新しくお店を発見すれば、よく付き合わされる。
まったく、どこから見つけてくるんだか…。
こういう店が、意外にあることに驚いた。
俺はあまり色んな店で相手を見つけるのは抵抗があるので、飲むだけ。
衛は8割の確率で相手を見つけてお持ち帰りされてる。
いや、持ち帰ってるのか?
さぁて、今日は見つかるのかねー。
そんなことを思いながら、ジントニックに口をつけた。
「またね、遥」
ご機嫌に手を振る衛に手を振り返し、駅に向かう。
飲み始めてから一時間もしないで見つけた衛の今日の相手は、推定年齢30前半の渋い感じの人。
俺にも他の男性から声がかかったけど、やんわりと断った。
今の俺は、時生さん以外考えらんないし。
衛はそんな奴に操たててどうすんだって言ってくるけど。
こればっかりはしょうがない。
好きなんだから。
なんて時生さんのこと考えてたら、会いたくなってきたなぁ。
携帯で時刻を確認すれば、10時を少し過ぎたあたり。
…会える、かな。
履歴から時生さんの携帯を呼び出し、通話ボタンを押す。
しばらくのコールの後、響いた低音。
『なんだ』
「今から行っていい?」
そう聞くと、しばらく無言が続いた。
ダメ、なのかな。
と少し気分が堕ちた俺に、時生さんは勝手にしろ、と言った。
これは、べつに来てもいいという意味で。
すぐに浮上した俺は、喜々として電話を切って家に向かった。
今いる場所から、約30分。
もう見慣れたマンションの二階、階段を駆け上がって、部屋のインターホンを鳴らす。
しばらくすると、中からドアを開けてくれた時生さん。
視線が合うこともなく、すぐにくるりと踵を返して中に入っていく後ろ姿を追うように、俺も中に入った。
ーーーその、瞬間。
ふわりと香る、香水の匂い。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 73