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裏側 2
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胃癌。
俺を襲ったそいつは、もうかなり進行していて。
治療、というよりはもう延命に近い施ししかできないと言われた。
余命一年。そう告げられる。
あまり生きることに執着していなかった俺は、薬を使ってまで行きたくはないと、ろくな治療もせず好きに生きると決めた。
ただ、自身が経営するバーだけは守ろう、と店長をやってもらっていた東郷(トウゴウ)へ店を渡すことにし、その日も引継ぎのために店を訪れていた。
客入りを見るためにフロアを除き、そこで……カウンターに座るアイツ見つけた。
30もとっくに過ぎた男がなに言ってんだ、そう笑われるだろうが…一目惚れだった。
だけど死にゆく身の俺は、動くことをしなかった。
引継ぎをするため、と自分に言い聞かせながら、店に顔を出す日々を送った。
アイツを見つけて、半年。男と店を後にするアイツを何度見かけただろうか。
歯がゆく思いながらも、それでも何もできずにいた。
だけど。
いつものようにフロアを覗いたらアイツの横にスツールひとつ分開けて座る男が目に入り、そいつが最近知り合いのサツに見せられた写真の男だと気づく。
若い男を騙しゲイビデオに流し金を稼いでいるらしいそいつは、あろうことか値踏みするようにアイツを眺めていて。
マズイ、そう思いながらもどうすべきか迷っているうちにアイツは店を後にして、そしてあの男も後を追うように出て行った。
それを目にした瞬間、体が勝手に動き出す。
フロアに入り、出入り口であるドアへと向かい、そして見上げた階段。
案の定、男が腕を掴み強引に連れて行こうとしていた。
すぐさま声をかけ、そして階段を上がり引っ張る男の腕を左手で掴み、鉤状に曲げた右の中指を肘関節の内側に深く差し込んだ。
それによって、走った痛みにアイツの腕を離したそいつに詰め寄り、脅した。
"ゲイビ、儲かるのか?お前サツにマークされてんぞ、顔写真まで用意されて。
やってること、サツにバラされたくなければ手を引け。二度とこいつに近寄るな"
狼狽える表情をしたそいつは舌打ちをひとつして立ち去って行った。
ーーーこの日、初めてお前の瞳に俺が映った。
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