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近づく夏 1
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「時生さん、これ教えて」
「あぁ、これはーーー」
ベッドに腰掛ける時生さん。その横に並んで座っている俺。
今俺たちはテーブルに広げられたテキストを一緒に覗き込んでいる。
この病室を訪れてから、一週間。
ほとんど毎日と言っていいほど俺はここに来ていた。
この一週間で、時生さんは色んなことを教えてくれた。
上田さんやその奥さんとの腐れ縁の話や、学生時代のこと。
そして時生さんが大学で専攻していたものが俺と一緒なものもあって、時生さんに勉強を教えてもらっている。
「あ、そっか。だからこうなるんだー。ありがと、時生さん」
「ん」
横を向き見上げると、近い距離にある時生さんの顔、そして重なる視線。
俺はここでいつもそのあとを期待してしまう。
………キス、を。
だけど時生さんはスッと目を逸らして、再びテキストに意識を向ける。
「他は?」
「……あと、ここも」
テキストをめくり指先で指し示すと、そこを丁寧に解説していく時生さん。
その声に耳を傾けながらも、頭の片隅では違うことを考えていた。
時生さんは、一切俺に触れてこない。
病室を訪れたあの日。
時生さんは強く抱きしめてくれた。
だけど、その次に会った時生さんは…雰囲気は柔らかくなったけど、一線引いたようにわずかに距離を置いてきた。
今も近い距離に時生さんは居るけれど、どこの部分も触れてない。服すらも。
距離をつめても、時生さんは自然を装って離れていく。
すぐそこに時生さんがいるけど…わずかにある隙間が、とても寂しい。
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