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願う冬 8
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「…ん、とう…本当に…?」
「うん。まだ目は覚めてないけどね。そのうち起きるよ」
震える両手で顔を覆う。
───良かった。
安堵からさっき以上にこみあがってくるものがあるけれど、それを必死に抑える。
泣かないって──決めたから。
ううん、泣く資格すら、ないのかもしれない。
時生さんの病気から目を背けていた俺には───。
「…顔、見れますか」
起きていなくても、一目顔を見るだけ。ちゃんと呼吸をしてる時生さんを、目にしたい。
だけど、上田さんは少し困ったような、悲しそうな顔をしていて。
「……ごめんね、集中治療室は…家族以外は入れない決まりなんだって」
家族以外…赤の他人である俺は、時生さんのところに行けない。
当然といえばそうで俺は、わかりました、と答え立ち上がる。
「目覚ましたら連絡するから。病室に移ったときも」
「はい。お願いします」
ここにいても、俺が出来ることは何もない。
帰りますね、そう言うと上田さんは着ていたダウンジャケットを脱いで俺に渡してくる。
「外、寒いから。着て帰りな」
…そうか。俺のコートには時生さんの…。
「…でも、上田さんが」
「大丈夫、服持ってきてもらうから。…これ」
上田さんの手にあるのは、どこかの百貨店の紙袋で。そこから覗くのは、俺のコートだった。
「…ありがとうございます」
俺の様子を窺う上田さんに無理やり笑ってコートを受け取り、その場を後にする。
病院を出ると、突き刺すような寒さがまとわりついてきた。
太陽は沈み、夜の街を彩るように街路樹のイルミネーションがキラキラと輝いている。
暗闇に映え、カップルや家族連れがその光を笑顔で見つめていた。
時生さん。メリークリスマス。
俺は苦い気持ちで、そうつぶやく。
帰り道、俺はコートを…捨てた。
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