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切情
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『欲しいものない?』
───俺が欲しいのは。
『お願いとかないの?』
───俺が願うのは。
『時生さん。大好き』
───遥。ごめんな。きっと、俺はもう───。
見上げる空は寒々しいほどの曇天。
今にも雪が降りそうな空に、空調が効いているにもかかわらず体が震えた。
空を見上げながら、らしくないことを思う。
俺もアソコにいくんだろうか、と。
いや、いくんだろうか、なんて感慨深く思っているわけじゃない。望んでいるんだ、俺は。
アソコにのぼったら、果てしない上から遥を見守ることができるんだろうな、なんて。
本当にらしくない。
そんな自分に嗤いながらも、俺はアソコ──空にいけたら、なんて思わずにはいられない。
遥。
俺が欲しいものは、お前。
そして俺が願うものも……お前だよ、遥───。
体が重い。
視界に入ってくる景色に、生きていたのか、と感じた瞬間──頭の中に浮かんだのは目を見開いて俺を見つめていた遥だった。
しばらくして現れた実に開口一番「遥は?」と聞くと、呆れたような、泣きそうな顔で「今は帰ってもらってるよ」と言った。
よりによって遥の前でぶっ倒れるなんて…自分の失態に嗤うしかない。
元の病室に戻ってから数日、ようやく遥が顔を出した。
必死に表情を押し隠し、唇を噛み締める遥に胸が痛む。
頼むから、そんな顔をするな。
必死に堪える遥をほぐすように、唇を撫でる。
我慢しなくていい。
「遥」
優しく名前を呼ぶと、こらえきれなくなったのか、遥の目から涙が溢れ出した。
クシャリと顔がゆがみ、口から嗚咽が漏れ始める。
優しく頭を抱き寄せ、肩に顔を埋めさせ、抱き留めた。
「うっ、とき、おっさ…っ、ふ、ぅ…うぅ…っ」
「悪かった、遥。怖い思いをさせたな」
首を横に振る遥。ぎゅうっと服を握りしめるその手が震えている。
「ときお、さ…っ、ふぅっ、ときおさん…っ」
「ん」
何度も何度も確かめるように俺を呼ぶ遥に頷き返す。
遥。確かに俺はお前に泣かれるのは苦手だ。でも─でもな。
「遥、明日も来いよ」
「んっ、ふ…来るっ」
「待ってる」
まだ生きてるから。
生きてるうちは、お前を慰めてやれるから。
こうやって抱き締めて、名前を呼んでやれるから。
だから、感情を押し殺そうとしないでくれ。
「ときおさん…あったかい…っ」
「あぁ。お前もあったかい」
遥。
死んだら、お前を慰めてやれなくなる。
俺はそれが───何よりも苦しくて、悔しいんだ。
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