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たくさんの嘘とたったひとつの真実 1
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手の中にある、四つ折りに畳まれている、紙。
均等な間隔で横線が並ぶそれは、俺が渡したルーズリーフの一枚で。
それはクシャクシャとシワだらけだった。
家で読んで、そう言われて、開(ひら)けることなく持ち帰ったもの。
これは、 時生さんを最期まで見送ったあと帰り際に上田さんが渡してきたものだった。
『最後まで迷ったんだけど──やっぱりこれは遥くんに渡すべきだと思って』
そう言って切なそうに笑う上田さん。
首を傾げながらも受け取った次に言われた言葉に、俺は衝撃を受けた。
『それね、時生からの手紙。遥くんへの』
『──え…?』
受け取ったものを凝視する。
『クシャクシャなのはね、ゴミ箱に捨てたからなんだ。
拾ったときに読んでしまったんだけど…ごめんね。
捨てたってことは、時生はそれを遥くんに渡さないつもりだったんだろうけど…僕の、最後のおせっかい』
手紙。時生さんからの。
紙を持つ手が、震える。
『遥くん』
俺を呼ぶ真剣な声音に、俺は上田さんへと視線を移した。
そこにあったのは──どこか苦しそうな顔をした上田さんだった。
『それ、今すぐに読みたいかもしれないけど…家に帰ってから読んで欲しいんだ。
落ち着いて、ゆっくりと。それから…』
そこで一呼吸置いた上田さん。
迷うそぶりを見せて、そしてどこか辛そうに笑いながら、言った。
『泣かないでやって欲しい。その手紙を読んで。
きっと時生は、何よりも君が泣くことが、辛いと思うから』
よく分からないままそれでもとりあえず頷き、手に持つ手紙を大事にポケットにしまい、家路についた。
部屋に入ってソファにもたれかかるようにラグの上に座り、そしてポケットから手紙を取り出して…既に一時間以上が経つ。
何が、書かれてあるんだろう。
緊張しながらも──意を決して、開く。
そこに並んであるのは、右上がりのクセのある文字。
その字体がわずかに崩れていて、それが時生さんの体の状態がどんなものだったのかを知らしめる。
胸を詰まらせながら、俺はその文字に目を滑らせた。
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