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嘘
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*
目が覚めると、自分の部屋にいた
昨日はソラが行方不明で、それで玄関で待っていたら眠ってしまったのではなかったっけ…
見ると、握っているのは僕の編んだマフラー
もしかしたら、誰かが運んでくれたのかもしれない
そういえば、五時から収録だ
急いでいかなきゃ
向かった先のスタジオでは、10分前なのに大体のメンバーが集まっていた
「おはよう」
辺りを見回すとほとんどのメンバーがいて、挨拶をし返してくれてる
結構仲の良い後輩の田崎海人が近寄ってきた
「佑哉さーん!音がとれません!!」
開口一番がそれで若干びっくりしたけど
「ほら、楽譜は?」
「あ、ありますあります!!」
見に行きながら、メンバーの集まりをチェックする
1メンバーの僕がチェックしてもしょうがないけれど、みんな来ていない時に、連絡をしなければならないし
すると、ソラがまだ来ていなかった
マフラー渡したかったのだけど…
でも、寮でも渡せるし、いいか
あとは来てないのは、八十島さんと、そのお友だちの深瀬さんか
まあ、あのお二人は5分前とかには来てくださるはず
大丈夫だろう
それよりも…
「海人…そこの音は半音上がるよ」
当日の、それも十分前だと言うのに、海人は音程あやふやで
「えー!?ちょ、佑哉さん歌ってくださいよー」
僕もそんなに歌は上手くないんだけど…
歌ってみる
今は海人に向ける歌だから、小さな声で
「あー、あー、なんかわかってきたっす!」
それならよかった
海人は気持ちよく笑ってくれる
心からの笑顔
いつかソラも見せてくれると良いなぁ…
海人となんとかあらかたの音をとり終えた、その時だった
「…おはよう、ござい…ます」
辛そうな声で入ってきたのは谷田川ソラ
いや、声だけじゃなく、歩くのもやっとみたいな
後ろから八十島さんと深瀬さんに押されて、なんとか歩いてる
「ソラ!」
助けにいこうとしたら、海人に腕を捕まれた
その目は暗い…
「…ダメっす佑哉さん」
何で止めるんだろう
それに何で誰も助けようとしないんだろう
…まさか、八十島さん?
彼に逆らうことになるから?
確かに八十島さんは怖いけれど…
いや、今最優先させるのべきは新曲の収録
助けなきゃ…
今回はroseにソラが入って初めての新曲だから、ソラのソロがあるんだ
僕たちは助け合わなきゃ
同じグループなんだから
「ごめん海人、忠告ありがとう」
そう言うと、僕は彼の手を振り払い
ソラのもとへ向かった
「ソラ!」
その目は本当に苦しそうで、僕はますます焦ってく
「ゆ…やさん…俺…」
何をすれば良いの?
彼を助けるためには…
「とにかく座って落ち着こう」
彼を近くのソファへ誘う
歩くのもやっとの彼は、僕にしがみついている…
「あ…ぅあ…」
苦悶の声、どうすれば良いんだろう
彼を助けるには…
やっとの思いでソファの前にたどり着いた彼をソファに座らせたその途端だった
「あぅっ…!」
先程の声が、さらに苦しそうになった
はあはあと息をついているけれど、見るに耐えない
八十島さんは深瀬さんとにやにや笑ってる
花澤さんは視線をあわせてくれない
でも、このままじゃソラは苦しいまま…
「ソラ…どういう状況なの…?」
「…はぁ、はぁ…ひぐっ…大、丈夫…」
彼は喘ぐばかりで答えない
そればかりか、大丈夫だなんて
そんなわけないに決まっているのに
「roseさん、お願いします。まずは谷田川ソラくん」
声がかかり、僕たちはスタジオに入る
僕は彼に肩を貸すことしかできなかった
「ソラ…平気…?」
「大丈夫…です…くっ…」
歩くのもやっとの彼を心配してたけど、彼はマイクの前に立つと、表情が変わった
思わず息を飲む
歌う前から発せられる妖艶さ、まっすぐさ
呼吸もできないまま彼を見ていた
口を開いた彼から出たのは
強くてよく響く歌声
いや、そんなことだけじゃない
表現できない
強いて言うなら、すべてを引き込みそうな声
わりと高めで柔らかいのにすべらかで、
そのスタジオから反響される声はたまらなく大人っぽくて強い
これ以上聴いていたら、本当に引き込まれそうだ
でも、体が動こうとしない
結局、歌が終わるまで、僕はその場を動けず
歌が終わった瞬間、僕は地面にへたりこんでしまった
本当にソラはすごい…
だが、ソラを見ると、ソラも倒れていた
「ソラ!」
そうだ
先程まであんなに苦しそうだったんだ
歌を歌うときだけ、プロとしてできる限りのことをしたに過ぎないんだ
僕は必死に立ち上がると、ソラの介抱へ向かった
肩をかし、スタジオを出ると先程のソファに座らせる
ソラには申し訳ないけれど、僕もまだ収録が終わってない
「ソラ、ちょっとだけここで待ってて」
「…は、はい」
僕はもう一度スタジオに入った
早く寮に戻らなきゃ
ソラを助けなきゃ
その時、僕は後ろで、ソラが満足げに笑っていたことを、僕は知らない
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