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真正面からの肯定。
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いよいよ迎えた春の高校バレー東京都代表決定戦では準決勝で音駒に勝利し、決勝では井闥山に負けてしまった。
悔しいことに変わりはないが、正直予想通りの結果と言える。
試合が終わった後、いつも通りミーティングをして解散し、帰り道は途中から赤葦と木葉の2人きりとなった。
「木葉さん。」
「ん?」
名前を呼んだ彼はとてもまっすぐで、こちらを刺すような強い眼をしていた。
「俺は木葉さんを泣かせたくないです。」
「と、突然ナニ!?」
赤葦の発言の意図が分からず木葉は戸惑った。
「木葉さんは3年生で、これが最後じゃないですか。」
「あー……マァネ。」
なるほどそういうことか、と一瞬で把握。
「だから、泣かせたくないです。」
「……そんなこと言われるような先輩なのかな、俺。」
「木葉さん……?」
改まって赤葦からそんなこと言われるなんて思ってもみなかったことに加え、そんな言葉を受けていい人間に値するような先輩とも思えなかった。
「ぶっちゃけさ、俺ってなにもねーじゃん。木兎みたいに特別凄い才能があるわけでもないし、身長もチームじゃ低い方だし。赤葦からそんな言葉受け取れるような先輩じゃ……」
言えば言うほど自分の言葉が自分の胸に刺さり、重みが増した。そんな自分が恥ずかしくなり、赤葦を見ることができない。
「木葉さん。」
赤葦は木葉の両肩を掴み、自分の方へ向かせた。
赤葦の鋭い視線が刺さるのを感じ取り、木葉は目を合わせようとはしなかった。
「ちょっと座りましょう。」
赤葦は木葉の手を引いて近くの公園へ入り、ベンチに座らせた。
「なんでそう思ったんですか?」
「なんでって…事実だからだけど……」
「……ホンット、たまに馬鹿ですよね。」
「な……っ!?」
勢いよく顔を上げると、赤葦に両手で顔を挟まれた。
「やっとこっち向きましたね?」
「……や、やめ……」
赤葦の手首を掴んで離そうとするが、力負けしてしまった。
「それは事実じゃないです。」
「絶対みんな思ってる……」
「思ってません。そう思ってるのは木葉さんだけです。」
「……嘘だ。」
「嘘じゃありません。少なくとも俺は思ってませんから。」
「そんなわけ……」
「スパイクを派手に決めることだけがすごいことなんですか。得点をもぎ取ることだけが偉いんですか。そうじゃないですよね。流れを読んで体勢を整えたり、俺がセットアップできないときに代わってすぐに対応できたり……そんな木葉さんは、すごく素敵で、すごく尊敬してる先輩です。何もないなんて言わないでください。」
周りから地味だとか、器用貧乏だとか言われる度に笑いながら受け流していたが、チクリと胸を刺していた。事実なのだから仕方ないと諦めていた。
けれど、真正面からそんなふうに言われると嬉しいような、恥ずかしいような、色んな感情が入り交じって湧いた。
同時に目の奥が熱くなり、鼻がツンと痛くなった。
「本当……泣き虫ですね。」
赤葦は親指で木葉の目尻をそっと拭った。
「ありがとう……。」
「……はい。」
「ごめんなさい、結局泣かせてしまいましたね……」
赤葦がぽつりと放った言葉に思わず笑ってしまった。
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