アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
せめて 抱きしめて〜起〜 13
-
「あ・・・ありがとうございます」
ボクは、突然の出来事に唖然(あぜん)としながら、反射的に頭を下げてお礼を言った。
「知り合いですか?」
「一応・・・でも助けていただいて、助かりました」
その人は憤慨(ふんがい)したように眉尻を上げると、
「腕大丈夫ですか?全く、女性に乱暴するなんて、男の風上にも置けません」
「・・・くすくす・・・ボク男ですよ」
ボクの容姿に完全に騙(だま)されていたのだろう。
その人は、心底驚いたように、
「ええええっ?!男・・・えええ?!」
「よく間違われるんですが、一応男です」
ボクは素直なその反応に可笑(おか)しくなって、笑いが止まらなかった。
くすくす笑っているボクに、その人は生真面目に頭を下げた。
「すみません。あんまり可愛いからてっきり・・・あ、嫌味とかそういうんじゃないです」
「わかってます・・・褒められてるか嫌味かはわかります」
「参ったな・・・あ、怪我してませんか?」
「いえ、大丈夫です」
その人は間違えたことが恥ずかしいのか、頭をぽりぽり掻(か)きながら、話題を逸(そ)らした。
その反応も可笑しくて、可愛くて、ボクは笑いが止まらなかった。
そうして笑っているボクを、その人はしばらく見ていたが、不意にボクが部長に掴まれていた腕を掴んで来た。
「え・・?」
一瞬、怯(おび)えるように身構えたボクだったが、その人はボクの手を見ながら、
「手、怪我してるじゃないですか」
「え?」
指摘されて見ると、どうやら部長の手を振りほどこうとしていた時に、何かにぶつけたのだろう。
手の甲にすり切れたように傷が出来て、血がにじんでいた。
「このくらい何でもないです」
笑いながら言うボクに、それでもその人は、少し怒ったように言う。
「ダメですよ。ばい菌が入ったら大変だ」
その人は下げていたスポーツバックの中を、がさごそして、何かを見つけたような顔をすると、それを取り出した。
「すみません、絆創膏(ばんそうこう)いつも持ってるんですが・・・」
そう言って、白いハンカチを取り出すと、ボクの手を引き寄せて、ハンカチで傷口を覆って、端を結んだ。
「ちゃんと消毒して、絆創膏貼って下さい。じゃあ」
それだけ言い残して去ろうとするので、ボクは思わず、バックを掴んでいた。
「あの・・名前、名前教えて下さい!」
「ええ?いやそんな・・」
「お願いです。ハンカチ返したいし。お礼もしたいので」
「いやいや、いいですよそんなの」
恐縮しているその人に、ボクは必死に食い下がった。
何故、こんなにムキなるのか、自分でもわからなかった。
「いえ、ちゃんとお礼したいんです!お願いです!」
バックを掴む手が震える。
何故か、このまま別れてしまうのが、嫌だった。
「・・・そうですか・・」
その人は、ボクの必死さに根負けして、ボクに向き直る。
「オレは、田所(たどころ)剛(つよし)です。T大2年生で柔道部の主将してます。夕方なら大学の柔道場で練習してるんで、大抵いますから」
にっこりと笑った。
爽やかな笑顔に、惹(ひ)き込まれる。
「ボク・・・ボク、織懸千都星(ちとせ)です。高校2年生で・・・。今度、必ず伺います」
「じゃあ、オレ部活あるんで」
田所さんはそれだけ言うと、今度こそ本当に行ってしまった。
ボクは、その後ろ姿を見送っていた。
いつまでも、見つめていた。
あんな風にボクを助けてくれた人は、初めてだった。
あんなにボクを心配してくれた人は、初めてだった。
あんな人もいるんだな・・・。
ボクは、何だか心の中がふんわりと温かいもので満たされていた。
あの人の、暖かい笑顔が、いつまでも胸に残っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
13 / 111