アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
その後 12
-
俺は今、朝霞さんの勧める学校に転校して新たな生活をしている。
朝霞さんが、俺が前の学校に顔を出すことを異常に嫌がったからだ。
その時はどうしてだろうとしか思わなかったが、今なら分かる。
多分、俺の記憶のことが関係しているからだ。
俺はいまだに、一部の記憶に欠落がある。
そして、それはきっと思い出したくも無いような、嫌な記憶だ。
思い出そうとするたびに嫌な感情が心を掠めていくから、多分間違いない。
・・・そして、流石といおうか。
精神科の名医と呼ばれている(らしい)医師、朝霞さんは
「無理して思い出すと気分が悪くなるよ」
と、記憶を取り戻そうとひそかに頑張っていた俺を、完璧に見透かしていた。
それ以降俺は朝霞さんの言葉に従うかのごとく、無理に思い出そうとするのをやめた。
まったく、侮れない人だ・・・
俺はそう思って、その時少し笑ったものだ。
だがしかし、そんな朝霞さんも一瞬の油断というものをする。
具体的に言えば、
朝霞さんは俺の『思い出したくないこと』を知っているような口ぶりで言葉を洩らしたのだ。
しかも、そのあとで明らかに『あ、やば』みたいな反応もしてくれたので、これもほぼ確信に近い。
だから、10歳年下にお茶目(おれだけど)とか言われるんだよ、と思う。
まあ、それはさておき。
それこそが、あの異常な嫌がりっぷりの答えだと、俺は考えてる。
理由はいくつかあるけど、
俺が記憶を取り戻すことでショックを受けるんじゃないかと心配している節があるから、これが一番有力。
心配してもらうって、苦しいけど嬉しいんだなってこのときに知ったんだ。
そしてだからこそ、俺は心配してくれている朝霞さんのためにも転校を承諾したのだった。
こういう、細かな気遣いが出来るのにも関わらず、それを隠しきれない人間らしい朝霞さん。
この人の隣は温かくて、幸せで満ちている。
なのになぜだろう、時々泣きそうになるんだ。
・・・でも、俺はその心に蓋をする。
それは、この偽りの平和を、永遠に続けたいと願うから・・・
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
35 / 129