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弟が語った過去
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「つまりね、兄さんへの愛が故のことだったんだよ。だから、怒らないで…もう、逃げないでよ。僕、兄さんがいないと生きていけない…」
……………。
え、と……。もしかして、とんでもないことを言われている…のか?
俺が知りたかったのは、どうして死にかかるほど、殴られなきゃいけなかったのかということだけ。色々と……出来れば、知りたくないことばかりな内容だった。
「兄さん?やっぱり、許してくれないの?やっぱり僕がキライなんだ…」
「…や、…え、と。嫌い、じゃない…けど……ちょっと、うん…」
涙ながらに語る優人は、内容を聞かなければ同情したくなるくらい悲痛な表情に満ちていた。
でも内容はしっかり理解できたし、可哀想だけど余計に怖くなったかな。聞かなきゃ良かった、本当に。
心臓が飛びでそうになるのを堪え、優人から視線を反らす。逃げたい。全力で逃げたい。
「兄さん?僕、あんな事もうしないよ?絶対に…約束する。お願いだから、怖がらないで…」
「う、……あ…が、頑張る」
でも優人、それはたぶん簡単なことじゃない。
あの時のことは簡単に忘れられるようなものじゃないし、わかったと言って怖がらなく出来るものでもない。
優人はたった一度のことだから、と思うかもしれないけれど、そうじゃない。
義母が荒れるときは、いつだって優人だった。
初めて義母に暴力を振るわれたときも、その後も続いた暴力も。
聞けば友達を作るなと言われたのも、一緒に食事出来なくなったのも…優人が原因だ。
そして殺され掛けたあの時。
それ全てが愛だからで許されるはずがない。
何とか死なずに済んだけれど、結局二ヶ月入院し、退院してからも外に出られるようになるまでに数ヶ月。高校三年生をもう一度やり、同学年とは一年遅れで大学に入った。
義父には感謝している。大学に入れて貰えたし、就職も面倒見てくれた。
優人が職場に現れたときも、二度目のときも、義父は優人から逃がしてくれた。義父や義母にとって、俺が優人の傍にいないことが都合が良かったからだとしても、俺は優人が怖かったからそれでも有り難かった。
でも見付かってしまったのは、あの日の数日前、義父が店に来たからだろう。
別に用があったわけではなく、近くに来たから寄ったそうだ。義父にはたまに連絡を入れていたから。
「久しぶりだな。お前、まだ…こんな所にいたのか」
早くもっと遠くに行け。あの子に捕まるぞ。
そう小さな声で言い、義父はミネラルウォーターを一本買って帰った。
会うのも本当に久しぶりだったし、たったそれだけで見付かるなんて思わなかった。世の中って、怖い。
たぶん最後の職場の解雇は、義父ではなく優人が手を回したのだろう。
そんな相手と一緒に、日向の下ベンチに座って会話するなんて夢にも思わなかった。
俺はどうしたら良いのだろうか。
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