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三日月の社に到着するずいぶん前から、それはミズハの目に映っていた。
「きゃはっ、きゃはっ、きゃはっ! あはははは!」
「朝日様、御機嫌ですねえ、暁丸様」
「おまえもやる?」
その、幼さを残す少年の姿からは想像もつかないほどの膂力で、我が子朝日を繰り返し繰り返し、天空高く放り投げ、その尋常ではない光景を三日月の社到着前からミズハの目に焼きつけさせ続けていた暁丸は、ミズハの言葉に対してあっさりとそんなことを言いながら、天空の高みから落っこちてきたところをがっちりと受けとめてやった朝日をヒョイとミズハのほうへと突き出して見せた。
「あの、私には、無理ですそれは」
「なんで? 朝日、別に泣いたりしねえよ?」
「あの……普通の高い高いくらいならできますけど、私の力では、あんなふうに朝日様を高くまで放り上げることなんか出来ません」
と、ミズハは真顔でこたえた。
「そっか。人間は、弱いからな」
嘲るでもなく、軽んじるでもなく、暁丸はただ単純に事実を告げる声で言った。
と、不意に。
「だっだっだっだっ!」
と、元気のよい声を上げながら、朝日が暁丸をその小さな手でペチペチと叩いた。
「こいつ、催促してやがる」
暁丸は小さく苦笑した。
「ほーら、朝日、高い高いたかーい!」
「きゃは! きゃはははは!!」
「あ!」
「え!?」
暁丸とミズハが、同時に驚愕の声を上げた。
「朝日、おまえ……高いところが、好きなんだな」
暁丸は、ポカンと口を開けたままそうつぶやいた。
「あの……と、飛んでらっしゃいますよね、朝日様……?」
ミズハは、空中で短いプクプクとした手足をチタパタと動かして、危なっかしく、だが確実に、その落下の速度を遅らせて空中にとどまり続けている朝日を見て呆然と言った。
「いや、ありゃ、飛んでるっていうよりおっこってくるのを遅らせてるだけだろ」
暁丸はそう言いながら、朝日の落下を待ち受ける形に腕と胸とを開いた。
「まあ、親の俺が飛べるんだから、子供の朝日が飛べたって別におかしくはねえけど」
「あっぷう!」
暁丸の腕の中にすっぽりとおさまった朝日は、何やら得意げな声を上げながら、小さな体をグインと元気よく反り返らせた。
「おまえ、俺に抱っこされたくないのか、されたくないのか、どっちだ?」
と、そっくり返った朝日を危なく取り落としかけた暁丸が、幾分あきれたように朝日にそう問いかけた。
「あはっ、あはっ、あはははは!」
「チェッ、笑ってやがる」
暁丸は再び苦笑した。
「あの、ところで暁丸様、三日月様はどちらに?」
「三日月なら、社の中でなんか仕事してる。なんか、いろいろ、書いたり読んだり。俺はまだ、そういう仕事はほとんど手伝えねえから。だから朝日の御守りしてた。おまえ、三日月になんか用か?」
「あ、ええと、あの、今年の寄合月は、どうなさるのかおうかがいしておこうと」
「よりあいづき? なんだそりゃ?」
「ええと、あの、この界隈の神様達が皆様で御会合をお開きになられるんです。今年の持ち回り番はうちの村じゃないからそれはいいんですけど、でも、三日月様が御会合に御出席なさるかどうかだけは、一応おうかがいしておこうかと」
「そりゃ、俺じゃわかんねえな。三日月に直接聞いてくれ」
暁丸は肩をすくめてそう言いながら、腕の中で楽しげにパタパタと動き続ける朝日を再び空高く放り投げた。
「きゃはー! あははははっ!」
「やっぱ、高いところが好きなんだな、こいつ」
暁丸は、何やら納得したようにうなずいた。
「確かに、そのように見受けられますね。それでは暁丸様、朝日様、私はちょっと、三日月様に御うかがいしてまいります」
「おー、行ってこい行ってこい」
再び、幼い手足をパタパタと動かして空を泳ぐ朝日と、そんな朝日に視線を当てたまま軽くそうこたえる暁丸に、返事を求めぬ微笑みを向け、ミズハはそのまま三日月の社へと歩を進めた。
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