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キス
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一言何をしてるんだとつぶやいたきり、姫が何を言っても反応しなくなった奏汰。
険しい顔で黙り込んでいた。
拳がぎゅっと強く握られているのを見逃さない。奏汰が入ってきたとき、那都は奏汰に背を向ける形で俺に額をつけていた。
おそらく、奏汰の角度からは姫たちが顔を突き合わせていたことしかわからなかっただろう。それこそ、キスでもしているかのように。
どうしたもんか……
おろおろと俺と奏汰の間を歩き回る那都。その顔は真剣で、焦っていた。
いつの間にか俺の隣にいた冬樹が、俺らの方にきた那都の腕を掴み、ぐいっと引き寄せる。
よろめいた那都を抱きとめた冬樹は何かを那都に囁きかけた。
それは本当に囁くだけで、隣にいた俺にも何を言ったのかは分からない。しかし、それを聞いた那都は大きな瞳を見張ると大変! と呟いて奏汰の方へ駆けていく。
行かせたくない。
この期に及んでも、そんなことをぼうっと思う。
行かせたくない。あの小さな手を握り締めて縛り付けてしまいたい。
……今だけでも。
ぴくりと動いた腕は少し遠ざかる那都の背中を追うように上がるが、力を失って落ちる。
たった数メートル。バカみたいに遠いわけではないのに、途方もない距離に思えて笑ってしまう。
俺はこんなにも弱かったのか。
那都は奏汰の腕を掴み、んーっと背伸びをして額を合わせている。
そう、さっき俺にしてくれたように。
隣を見ると冬樹が俺を見ていて、俺も冬樹を見ていて。
なんだか心を覗かれた気分になる。いや、覗かれていたのかもしれない。
だって、冬樹は俺の頭をポンポンと叩いたんだ。
那都が奏汰の腕を引いて戻ってくる。
奏汰はよほど強く噛み締めていたのだろうか。その唇は薄く切れ、血が滲んでいた。
「奏汰、何考えてたんだよ」
ちょっと笑う気分ではなかったけれど無理やり笑顔を作り出す。
冬樹が飄々とした顔で続けた。
「那都がビビってたろー? まさか、寝てたんじゃないよな?」
その軽口に楽しそうに笑う那都はいつも通りで、俺らや奏汰の心には気がついていなさそうで。
奏汰もいつも通り、とは言わないけれど憎まれ口を叩いていて。
すっかり元通りになったようだった。
少なくとも、その時はそう思っていた……
俺は。
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