アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
行方不明5
-
「……那都…?」
さっきまでまるで別人のように険しい顔で憤っていた弟に恐る恐る声をかける。
優しく微笑んだ弟はドアの前で立ちすくんだまま動けないあたしの前までゆっくりと歩いてきた。
軽くかかんで、那都の少し骨ばった、けれど優しい掌があたしの頬を柔らかく触る。
……大きくなったなぁ。
ぼんやりとそんなことを思う。152cmしかないあたしより、15cmくらい高い背。女の子のように可愛い顔と声で、あたしよりも女の子らしい格好をしているけれど、いつの間にかこんなにも大きくなっていたことに気付かされた。それでも周りからしたらスタイルのいい女の子にしか見えないだろう。そういうものを、この子は持っている。
目の前にある茶色の綺麗な瞳を見つめてぼーっとそんなことを考える。
「みぃちゃん?」
弟の心配そうな声。
「那都、怒っちゃダメ。可愛い顔が台無しだよ」
あたしも手を伸ばす。整った頬に手が触れる。お互い伸ばした腕がぶつかり合い、温もりを与えあった。
「みぃちゃんこそ、目真っ赤でウサギみたい」
ふふっと微笑みながら那都がいう。
そんな笑顔と温もりに、結婚まで考えた彼から受けた裏切りによってささくれだった心が少しなめらかになったような気がした。
「あんな最低な男、別れてよかったよ」
那都の声。だらりと下ろされていた反対側の腕がゆっくりと持ち上がってあたしの反対側の頬に触れる。
目を見つめたまま、額をくっつける。
あたしの心を覗くかのように。まっすぐと。
「でも、好きだった」
「うん。知ってる」
スルっと頬を撫でられる。なんだか、官能的なその動き。
「ほんとに、好きだった」
「うん」
駄々をこねるように何度も何度もそう呟く。
「でも、みぃちゃんを裏切ったんだよ」
「わかってる……でも」
そんなに簡単に諦められないの。
言葉は続かない。
那都の手によって撫で付けられた心は、また那都の手によって剥がされていく。官能的なその手つきが彼を思い出させる。
『男』が、彼を、思い出させる……
パシっと右の頬に添えられたままだった手を払う。
那都が小さく「っ……!」と息を漏らす。
視界がボヤける。那都の綺麗な顔がグニャリと歪む。
醜い、どす黒い感情があたしの心を支配する。
「那都は、いいよね」
「え?」
那都が目をみはる。首を傾げる。そんな仕草すら、可愛い。
「かっこいい彼氏が、あんたを溺愛してくれる彼氏が二人もいるんだもんね」
「ちょっと、美夏!」
あたしの異常を感じ取った遥が、腕を掴んでくる。
あたしの心を支配する闇は暴れ狂って制御ができない。
「でもさ、二人ともと付き合うってどうなの?」
言葉が、止まらない。
「そんなの、浮気と変わらないよね。いくら公認してるからって」
大好きな
「さっき那都、彼のことあんなやつって言ったよね」
弟を
「最悪なやつっていったよね」
鋭利な
「裏切りって言ったよね」
言葉で
「あんたは違うの?」
傷つける
「ぼ…くは……」
那都の表情が崩れる。痛い顔をする。右手をギュッと握って、左手で前髪を掴む。
昔から、変わらない、気にしていたことを突っ込まれた時の癖……
「あんたの彼氏たちも、おかしいよ」
傷つけたいわけじゃないのに、止まらない。目の前が赤く染まって、自分が普通ではないことをさらに強く認識する。
「三人で仲良しこよしで、なんて」
あぁ、ダメだ。これ以上言っちゃダメだ。
あたしが傷つける資格はない。八つ当たりにしては度が過ぎる。分かってはいるのに。
自分の中の冷静な部分が高ぶった感情をジッと見つめる。
なんだか、ドラマでも見ているようだった。
彼氏にふられた可哀想な女が、仲のいい自分よりも可愛い女の子に思ってもないことを言って八つ当たりをするシーン。
なんだか、そんなシーン前にも見たことある気がする。月9かなにかにありがちなシーンだから、きっとそれだ。
実際には親友でもなんでもなく、自分よりもはるかに女らしくて可愛い、弟だけれど。
「しかも男同士でなんて」
あ、ダメだ。
頭の隅でそう思う。これを言ったらきっと終わってしまう。
これは、あの子のトラウマ。
禁句だってわかっているのに。
「気持ち悪い」
吐き捨てた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
92 / 130