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声にならない叫び
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お姫さんが無事手術を終えて病室に移ったのは翌朝のことだった。
病院に到着した時双子くんは顔を真っ白にして座っており、カナが駆け寄るとようやく顔をあげたようだった。
「冬樹、春樹、那都は?!」
「運ばれてきてすぐに手術室に入って……まだ終わってない……」
冬樹くんが小さな声で説明をする。
俺はそんな三人を少し離れたところで眺めていて、冬樹くんの服がやけに汚れていることに気がつく。ふとみると手にも汚れが付いているようだった。
「冬樹くん、少し手と顔洗ってきたらどうかな?」
「……え?」
「冬樹お前それ、血!」
どうやら汚れだと思ったものは血だったらしい。カナが血相を変えて冬樹くんの腕をつかむ。
「……あ、姫の、顔が凄い汚れてて、服で軽く拭いたからその時についたのかな」
冬樹くんが呆然と呟く。
ふらふらと立ち上がるとトイレへ向かって足を踏み出す。しかし、しっかりと歩くことができないのかガクッと膝をつきかけた。
慌ててカナが支える。俺はカナとは反対側の腕を掴むと首に回させた。
「冬樹くん、歩ける? 俺支えるから、ゆっくり行こう」
「……ごめ…」
震える声。俺は掴んでいた腕をギュッと強く握りこんだ。もしも、カナだったら。そう考えると下手なことは言えなかった。たぶん、俺だったら発狂してるから。
来る途中で聞いた話によると、発見したのは冬樹くんだったらしい。頭を打ってるかも知れないから何も出来ないと言っていた。春樹くんが来るまで、救急車が来るまで、ずっと1人で彼女のことを見ていなければ行けなかったのは相当、怖かっただろう。それこそ、おかしくなってしまいそうなくらいに。
なんとかトイレまでたどり着くとゆっくりと離れる。その頃には自立できる様になっていて、支えは必要なくなっていた。
石鹸を使って、手を洗う。バシャバシャと顔を拭って、ポケットから取り出したハンカチで顔を拭いて……そこで冬樹くんの動きが止まった。
不思議に思って、声をかけようと口を開く。しかし、押し殺した嗚咽が聞こえて、音を発する前に黙る。
「守れなかった……」
涙混じりの声。
「僕が、迎えに行ってれば、もっと早く見つけてれば!」
言葉が刃物となって、切りつける。
「那都はこんな大怪我なんて、しなくてすんだ……僕が、僕が……!」
冬樹くんは、何も悪くない。それなのに、自らを責め、追い詰める。
ぐっと握った拳を洗面台に振り下ろす。何度も、何度も。
声にならない叫びが、冬樹くんの口から漏れる。俺は何かをしてやることもできず、ただ黙って見守ってることしかできなかった。
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