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たとえ君が振り向いてくれなくても… 1
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「お待たせいたしました」
心地よい低音とともに、目の前に注文の品が置かれる。
ふわふわのカフェラテと、見るからに甘そうなホイップクリームたっぷりのパンケーキ。
運んで来てくれたウェイターの柔らかな微笑みに、慌ててだらしなく緩んだ自分の頬を引き締める。
僕―風間将吾(26)―が、土曜の早い時間から、わざわざ会社からもアパートからも遠いこのカフェに通うようになって、早くも2ヶ月が経つ。
切っ掛けは、地元から観光に来た妹に“雑誌に載っていたカフェに行きたい!”と集られて。
元来甘いものに目がない僕は、“妹の付き添い”と言う立場なら遠慮せずにスイーツが食べられるからと、即答でオーケーした。
そこで、一目惚れしたのだ。
ここのパンケーキと、“イケメン”に。
一目惚れとは言っても、相手は男だ。
すぐに自分の気持ちに気付いた訳ではない。
最初は、格好いいなぁと思った程度。
こんな彼氏がいたら、彼女は自慢だろうなぁと。
翌週も、何となく彼を見たくなって。
パンケーキの美味しさを言い訳に、わざわざ早起きして行列と言えるレベルの時間を並んだ。
2度目の訪問でも、運良くオーダーを取りに来てくれたのは彼で。
そんな小さな偶然に、『これで今週も頑張れる』なんて思ってしまうんだから、僕は結構単純な人間だったようだ。
それからと言うもの、土曜はわざわざ電車を乗り継いで、このカフェに来るようになった。
金曜の夜は彼の笑顔を思い描きながら眠りに就き、今までの自堕落な生活が嘘のように土曜の朝は早くから鏡と向き合う。
ここまで来れば、これが恋心だと認めざるをえない。
そもそも、何人かの女性とお付き合いをしたことはあるが、いつも何かが欠けていた。
もしかしたら僕は、自分でも気付いていなかっただけで、元々こちら側の人間だったのかもしれない。
僕はどうやら運が良いらしく、半分以上の確率で、彼にオーダーを取って貰える。
そしてラッキーな事に、このカフェはオーダーを取る人と運んでくれる人が同じだ。
これまでの人生、くじ運が全然無くて、懸賞の応募なんかも一度も当たったことは無かったが、貯めに貯めていた運がここで漸く陽の目を見ているのかもしれない。
ところで、このカフェの店員は、皆愛称の書かれたネームを付けている。
彼の名前は“ミヤ”。
名字の一部だろうか。
宮田、宮崎、宮島……。
年齢は二十歳前後かな。
近くの大学の学生か、フリーターか。
そんな事を考えているだけで、自然と頬が緩む。
そこへ、冒頭の彼。
お決まりのメニューを目の前に並べ、
「ごゆっくりどうぞ」
と微笑む。
一方僕は、緩んだ頬を引き締め爽やかな笑顔を作り、彼に会釈する。
大丈夫だったろうか?
不自然に思われなかったか?
パンケーキを頬張りながら彼の心地よい低音を反芻すると、そのケーキはいつにも増して美味しく感じてしまうのだから、自分の乙女思考にも呆れてしまう。
けれども、そんな自分が嫌いではない辺り、結構救えないところまで来ているのかも。
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