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なんとなく、寂しさを紛らしたくて立ち寄った、ペットショップ。
ウチのアパートは犬や猫は飼えないが、ハムスター等のケージで飼える小動物ならOKだったはず。
まあ、その程度でこの気持ちが紛れるなんて、本当に思っているわけではないけれども。
それでも、何かにすがり付かなければ、何かで気を紛らせていなければ、自分を保っていられなくなりそうで。
周りは家族連れだったり、カップルだったりが楽しそうに可愛らしい動物を見つめるなか、僕は暗いオーラを身に纏って小動物コーナーに佇んでいた。
「や~だ~、この子可愛くない?」
その時、少し離れた背後から楽しげな女性の声が聞こえた。
普段ならば気にも留めないのだろうが、生憎今の僕に心の余裕はない。
『可愛いのに“やだ”ってなんだよ』
耳障りな女性の声に少々苛つきながらも、この距離ではどうしたって会話は耳に入る。
「ねぇ、この子ブサイクで可愛いんだけど~。
ミヤ~、聞いてる~?」
「うるせぇ、お前ちょっと黙れよ」
聞き覚えのある名前に、恋い焦がれた声。
ぎゅっと心臓が軋む。
こんな荒っぽいしゃべり方は聞いたことはないが、それでも、間違えるはずはない。
彼だ。
今なら、気付かれずにここを去ることも出来るだろう。
きっと、カフェの外で会っても気付かれはしないだろうが、顔を合わせないに越したことはない。
今のうちだ。
逃げなければ。
けれども、僕の足は言うことを聞かない。
びっしょりと汗に濡れた手を握り締めて歩き出そうと試みるも、膝が震えるばかりで。
例え偶然にしたって、彼の顔を見る資格なんて、僕にはないのに。
そうこうしている間に、ミヤくんは僕のすぐそばに来てしまう。
どうしよう。
嫌な汗が、全身から吹き出した。
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