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何がどうしてこうなったのか。
何故か今、僕はミヤくんとタクシーに乗っていた。
確か、店の前で言い合ってて、呼び込みの人から注意されて。
漸く解放されるかと思いきや、ミヤくんが「放っておけない」って譲ってくれなくて…。
たまたま客を降ろしたばかりのタクシーに、押し込まれて。
「ただの顔見知りに世話焼かれるのなんて嫌かもしれないですけど。
頼むから、家まで送らせてください」
思いを寄せる相手から悲痛な面持ちで言われては、もう拒否なんて出来るはずはなかった。
タクシーの中では、ミヤくんは終始無言だった。
たまに運転手が道の確認に言葉を発し、僕がそれに答えるだけ。
シンと張り詰めた空気が、僕の不安を煽る。
何をやってるんだろう。
勝手に好きになって。
勝手に会うのを辞めて。
偶然会ったかと思ったら、泣き出して心配かけて。
面倒なヤツに思われたよな。
迷惑以外の何者でもないだろう。
きっとミヤくんは優しくて、相手が行きずりの人間でも、こんな風に親切に接するような人なんだ。
だから、“バイト先のお客様”を放ってなんかおけないんだ。
それも全て、彼が僕の穢れた思いを知らないからこその好意で。
そう思うと、再び涙が溢れてきて。
ミヤくんに気付かれないようにそっと涙を拭おうとしたが、彼にはお見通しだったようだ。
何も問い詰めてはこなかったけれど、そっと優しく髪を撫でられて。
その手が肩に降りてきて、ポンポンと子供をあやすみたいに心地よいリズムを刻む。
「お客さん、ここでいいですか」
運転手の気だるい声にハッと顔を上げると、いつの間にかそこは僕のアパートの前だった。
「あ、はい、ありがとうございました」
わたわたと財布を取り出そうとするが、手が震えて上手くいかない。
そうこうしてるうちに、ミヤくんが会計を済ませてしまって。
「待って、僕が…」
「わかりましたから、取り敢えず降りましょう?
運転手さんも困っちゃうから」
そんなふうにたしなめられて、タクシーから降ろされる。
「えっと、いくらだった?」
タクシーの去ったアパート前で財布を開くと、ミヤくんがそれを止める。
「いいですよ、元々俺がタクシーに押し込んだんだし」
「そんなわけにいかないよ。
僕が酔って心配させちゃったんだし、ミヤくんは学生なんだから」
そう言っても、やっぱりミヤくんはお金を受け取ってはくれない。
「わかりました。
じゃあ、また今度カフェに来てください。
そしたら、受け取りますから」
そんな風に微笑むから、余計に心が苦しくなって。
やっぱり、ちゃんと伝えよう。
そうすれば、ミヤくんもきっと気持ち悪がって、もしもまた外で会っても、僕に話しかけたりしなくなる。
きっぱりフラれれば、僕だってきっと吹っ切れる。
中途半端だから、辛いんだ。
中途半端だから、あるはずのない希望にすがるんだ。
でも、あと一回だけ…。
「わかったよ。
ミヤくんは明日はバイト入ってるの?」
今すぐに想いを伝えてしまうだけの勇気はまだなくて、往生際悪くまた“土曜日”に会いに行こうとする女々しい自分。
そんな僕を知らないミヤくんが、また微笑む。
「明日はオープンから昼過ぎまでいますよ」
「じゃあ、明日行くよ」
「はい、お待ちしてますね」
覚悟を決めたら何だか気持ちがスッキリして、久しぶりにミヤくんの顔を正面から見詰める。
ああ、やっぱり整った顔してるな。
この柔らかい笑顔、好きだったなぁ…。
普段は大人びた印象なのに、たまにヘラッと笑うと年相応で。
格好良くて、なのにどこか可愛くて。
明日は、この顔に蔑みの表情が浮かぶのか。
ふうっと息を吐いて、「酔い醒ましに歩いて帰る」と去っていく背中を見詰めていると、ふと彼が振り返る。
「将吾さん、約束ですよ!」
夜中なのに大きな声を出すから、慌てて辺りを見回した。
幸いなことに通行人はいなかったが、そんな事をしている内にそのままミヤくんの姿は、路地を曲がって消えて行ってしまった。
複雑な想いを胸に抱えたまま、一人アパートの階段を上った。
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