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普段はコンビニやインスタントで済ませてしまうから良いお店とか全然知らなくて、本宮くんに案内されるままにカフェの近くのイタリアンに向かう。
一歩裏道に入ると、表通りの喧騒が嘘のように、なんだか落ち着いた空気が漂う。
「建物は地味だけど、安くて美味しいんですよ」
優しく微笑みながら言われて、本宮くんのお気に入りをひとつ覚えたことが、なんだか嬉しかった。
結構昔からあるらしいそこは確かに年期の入った建物だが、小綺麗で優しい雰囲気の場所だった。
とっくに昼食の時間は過ぎているから店内の客はまばらで、ドアを開けるとすぐに若い店員が対応してくれた。
促されるままに、本宮くんの向かいに腰をおろす。
改めて正面から向き合うと、照れと言うか、気まずさと言うか…。
なんともいたたまれない気持ちで視線を落とし机を見詰めると、本宮くんがフフッと笑う。
「将吾さ~ん?
何でそんなに下向いてるんですか?」
からかうような声音に、耳まで赤くなるのを感じて。
「えっ…な…」
なんて答えていいのかわからずにどもってしまうと、今度は堪えきれないって感じで本宮くんがクスクス笑い出す。
「将吾さーん、顔見せてください。
ほら、ちゃんとこっち向いて~」
本宮くんの手が僕の顎を捉えて、クイッと前を向かされる。
「ちょっ…!?」
からかうのをやめない本宮くんを、真っ赤な顔で睨み付けるけど、全く効果はないらしい。
「将吾さん、反応良すぎですよ。
耳まで真っ赤」
お腹を抱える本宮くんの目尻には、涙すら浮かんでいて。
「もー!
ほら、さっさと決めよう、お腹空いた」
話題を反らしたくてズイッとメニューを差し出す。
「はいはい」
本宮くんは小さな子供にでも返事するような口調で。
なんか……。
「本宮くんって、意外と意地悪なんだね」
つい本音が漏れる。
『しまった』
そう思ったときには、既に言葉は口から出ていた。
本宮くんは、僕の我が儘に付き合ってくれてるだけなのに、こんな言い方はまずいだろうって思うけど。
言ってしまったものを無くすことは出来ない。
本宮くんの反応が怖くて俯くが、反応を確かめないのもまた怖くて。
そろそろと顔を上げて、びくびくしながら彼の反応を確かめる。
でも、本宮くんは僕の心配を他所に、ニヤっと笑ってて。
「そうですよ。
幻滅しちゃいました?」
問い掛ける声音はどこまでも楽しげで。
幻滅なんて、勿論するわけはない。
だって、こんな人を喰ったような笑みですら、本宮くんがすると格好いいだけなんだから。
無言の時間がいたたまれなくて、思い付くままに質問を繰り出す。
だって、会話が途切れると、本宮くんがニコニコ笑いながら見つめてくるから。
なのに、僕の質問には丁寧に答えてくれるから。
「学生って言ってたよね?
一人暮らし?自宅生?」
素朴な疑問のつもりだったが、言ってから後悔した。
「オヤジと二人暮らしです。
ついこの前までオヤジが単身赴任で悠々自適な一人暮らしだったんですけどね。
戻ってきちゃって。
まあ、放任主義だし、物心付いたときからずっと二人暮らしだから、不便はないんですけどね。
若干ウザいくらいで」
「そう…なんだ」
本宮くんはクスッと笑っているが、お父さんと二人暮らしってことは、お母さんはどうしたんだろう…。
最近では片親って珍しくはないけれど、それでも知り合って間もない人間に踏み込まれたくは無い話題だろう。
何か違う話題を探すが、本宮くんが僕の様子に気付く方が早かった。
「ガキの頃に両親離婚してるんですけどね。
母親とは今でも連絡取ってるし、オヤジと母親も普通に話すし、家庭環境は良好なんで、気にしないでください。
てか、聞かれたくないことはちゃんとそう言いますから。
大丈夫ですよ」
僕の気まずさを全て分かっているとでも言いたげに、本宮くんがクスリと笑った。
結局、ずっとそんな調子でからかわれたり照れたりしながら、昼食を取った。
せっかくの二人での食事なのに、アワアワと照れたり慌てたりしてて、味なんて全然わからなかった。
まあ、本宮くんのことはいろいろ教えてもらえたし、僕のこともいろいろ聞いてもらえたから、初めての………デート…?………としては、ホントに幸せな時間を過ごせたと思う。
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