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なんとも落ち着かない気持ちのまま、一夜が明けた。
本当はいろいろと気になって仕方なかったが、悩んだ末に朝は本宮くんの所へは行かなかった。
“オヤジには絶対に言うなよ”
本宮くんにとっては何気ない一言だったのだろうけれど、どうしてもあの言葉が胸の奥に引っ掛かっていて。
冷静に彼と向き合える自信が、なかった。
幸いなことに、桐島さんが飲み物や薬などはたっぷり用意してくれていたし。
午前はひたすら仕事に没頭して過ごした。
「風間くん、お疲れ様」
間も無くお昼という時間に、爽やかな笑顔で桐島さんが現れる。
「桐島さん、お疲れ様です」
桐島さんはいい人だし、大好きだし、昨日のことも誤解だと解ったけれど、この人と話していると相変わらず女性社員からの視線が痛くちょっと居心地が悪い。
「風間くん、お昼はいつもどうするか決めてるの?」
「いえ、その時その時で適当にしてますけど…」
差し出された書類を受け取りつつ答えると、桐島さんが「良かった」と呟いて。
「じゃあ、今日は一緒に食べよう」
僕を誘って柔らかな笑みを漏らすものだから、女性陣がザワついた。
「風間くん、好き嫌いは?」
「いえ、特にないですけど…」
「じゃあ、和食でいい?」
そう言って連れてこられたのは、高級懐石のお店。
最近会社の近くに出来た支店で、本店に比べてリーズナブルに本格的な和食が食べられるって女の子達が噂してた所だ。
とはいえ、たぶんランチでも数千円はするはず。
財布の中身が気になるが、そんな僕を他所に、桐島さんは軽い足取りで店内に入る。
中はお昼時だというのに静かで落ち着いてて。
カウンターもあるようだったけれど、桐島さんと二人で個室に案内してもらった。
メニューを手渡されギクシャクと受け取ると、桐島さんからサッと奪われる。
「今日は臨時収入があるから、値段は見ないで選びなよ」
そう言って、メニューを読み上げられて。
値段もよくわからないまま、無難そうな天麩羅御膳をお願いした。
「何かあったんですか?」
「んー?
樹さん、あ、本宮部長のことね。
樹さんとちょっと喧嘩してね。
ムカついたから財布からカード没収してきた。
今頃寂しく自分で作ったお弁当食べてるんじゃないかな」
“臨時収入”ってなんだろうと思い疑問を口にすると、そう説明される。
部長のカードを没収って…。
それでご馳走になっちゃって、いいのかな……。
でも、喧嘩なんて言いつつ、桐島さんは楽しそうで。
きっと、ホントに仲がいいんだろう。
二人の睦まじい関係を垣間見れたようで、心がほんわりと温まった。
個室になんて連れてこられたから何を聞かれるのかドキドキしていたけれど、桐島さんの口から出てくる話題は仕事のこととか天気のこととかばかりで。
きっと何かを探るとかではなくて、昨日の僕の様子を心配してくれてただけみたい。
ゆっくりと美味しいご飯を頂いて、お腹も満たされたし、気晴らしにもなったかも。
お店を出る前に桐島さんがお手洗いに行って、お店を出るときに少しはお支払をと思ったけれど、その時にはお会計は済んでて結局受け取ってもらえなくて。
なんか、どこまでもスマートで、格好イイ。
同じ社会人なのに、なんでこうまで違うかなぁと思うとちょっと凹むけど、流石に桐島さんと比べたって仕方ないし。
そんなことを思っていると、ふいに桐島さんが口を開く。
「何があったかは知らないけど、ちゃんと向き合った方が後悔はないよ。
偉そうに聞こえるかもしれないけど、体験談だから、騙されたと思って信じてみなよ。
オレが言うのもなんだけどさ、あれで結構イイやつだから、嫌わないでやって」
やっぱり、色々気にしてくれてたみたい。
「はい」
何か僕たちのことを見守ってくれてる人がいるってだけでちょっと感動してしまって、胸に熱いものが込み上げて、それだけしか言えなくなる。
「無理して話す必要はないけど、話してすっきりするなら溜め込む前に声かけてよ。
話聞くくらいはするからさ」
優しく微笑まれ、ホント僕って恵まれてるなあと思ったら、少し涙が滲んだ。
本社に戻ると、エレベーターホールで桐島さんと別れる。
桐島さんはいつも階段を使うらしいけど、流石に僕には無理だから。
でも、桐島さんなら人に合わせてこういう時はエレベーター使いそうなのにとか思っていたら、階段の下で本宮部長と落ち合ってて。
勿論社内だから上司と部下の関係は崩さないけれど、二人で何か話しながら歩く姿は、凄くお似合いで仲睦まじくて。
いつか、僕も本宮くんとあんな関係になれたらいいなと思った。
フロアに戻ると、案の定女性陣が待ち構えていて。
「風間さん、システムの桐島チーフと仲良いんですね」
「桐島くんって、普段はどんな感じなの?」
矢継ぎ早に話しかけられる。
僕みたいな凡人からしたら、桐島さんみたいにモテる人って羨ましいけれど、モテる人はモテる人なりに色々大変みたいだ。
「桐島チーフって、本宮部長とも仲イイよね。
風間くんは本宮部長とは知り合いじゃないの?」
「本宮部長イイよねー!」
流石にそんな風に言われたときは、ちょっとドギマギした。
まさか本当の事など言えるはずもなく適当に誤魔化していると始業のベルが鳴り、やっと解放される。
桐島さんのお陰で少し気晴らしができて、午後も余計なことは考えずに仕事に集中できた。
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