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欠席<side 雪城>ー5
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「………」
すー、すー、とベッドから聴こえる声に安心して、彼の目を覆っていた手を離す。
ほんとに何してんだろーな…。
もう今日何回、自分に問いただしたかわからない質問を投げかける。
「……はぁ」
ため息を吐いてから、長時間この場所にいるのは自分的に良くないと思い、立ち上がって携帯と財布を持って立ち上がる。
そして部屋を出る前に俺はもう一度、新庄の顔を見た。
とんとんと、一定のリズムで階段を下りるとガチャガチャと玄関から音がした。
「あれ?鍵、かけ忘れたのかしら?」
そんな声が微かに聞こえる。
新庄の家の者だろう。
「ただいまー、…て、あら?」
俺が玄関まで行くと、ちょうど声の主が家に入ってきた。
大きな瞳。
白い肌。
ぷっくりした頬。
「あの、どなたですか?」
その視線が俺を捉え、不思議そうに見つめる。
その仕草までも、新庄にそっくりだった。
「同級生の雪城と言います。新庄くんが欠席したと聞いたので……」
あぁ、ほんと欠席したと聞いたからって、なんでここにいるんだろう。
「あ、すみません…お世話おかけしました」
俺が同級生だと知ると、新庄の母親はにっこり微笑んで、お辞儀をしてきた。
新庄も笑うとこんな感じなのかな、とぼんやり思う。
「いえ…じゃあ、失礼します」
「あ、雪城くん!」
ぺこりと俺もお辞儀して、彼の母親の隣を通って帰ろうとしたら名前を呼ばれ引き止められた。
「…なんでしょう」
早く、
「あ、うん…えーっと…」
早く、帰らせてくれ。
そのあいつに似た瞳を見ると不安になる。
怖い。
何か言われる前に、帰らなければ。
「もし…間違いだったらごめんなさいね…」
母親が一言先に断って言った。
「あなた、前に私にも会ったことないかしら…?」
ーーーーーーーあぁ、ほら。
「いえ…、無いです」
「そう?あら…こんなかっこよくて綺麗な人、忘れるはずがないのになー…うーん」
顎に手を当て、眉間にしわを寄せる。
たぶん、あなたの中で記憶に残っているのは、俺じゃない。
俺では、ない。
「あ、引き止めてごめんなさいね?」
結局誰なのか思い出せなかったのか、新庄の母親はにっこり微笑んで手を振って見送ってくれた。
「あ、はい。お邪魔しました」
ぺこりとお辞儀しながらドアを開け家を出た。
「ははっ…」
外に出ると、なぜか笑えた。
人間の記憶って、ほんとしょぼい。
大切な人だって、忘れてゆく。
もちろん、俺も例外ではない。
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