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小さな願いー3
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「春くん、僕だよ、マキだよ」
「……ぇ…」
声が出たのは、雪城が言い終わった何秒も後だった。
「ま、待てよ…わけわかんねぇよ…ちょっと、整理させてくれ…」
すっと、ストップの意味を込めて手を俺と雪城の顔の間に出す。
どういうことか全くわからない。
“春くん”って?
“マキ”って?
なんでこいつがその名前を口にしてるんだよ…?
それに、“僕”は、あいつの第一人称だ。
それをなぜ知ってる。
「お前、誰だよ…」
少しぞくりと、恐怖の念が生まれて雪城を睨む。
「だから、“マキ”だって」
すっと目を細めて苛立ちを顔に出す雪城。
「いや、あいつはお前みたいなやつじゃない。そもそもあいつの苗字は雪城じゃーー」
「“五十嵐”」
「へ?」
「だから、お前が言いたいのは“五十嵐 槙乃”でしょ?」
何故か簡単に雪城の口から、あいつのフルネームが出てきたことに俺はもう何も言えなかった。
「本当にお前馬鹿だな。…昔から何も変わってない」
「お前…本当に…マキ…?」
手が震える。
「だから言ってる、さっきから。俺は、雪城“槙乃”」
と、そう言うと雪城は壁に着いた手と俺の足の間にある足をどかした。
本当にこいつがあの“マキ”なのか…?
「マ、キ…」
じわりと涙が出てきて俯く。
会いたかった。
ずっと、会いたかった…。
「マキ…俺、…俺ずっと…!」
会いたくて、でも会えなくて…。
「俺ずっとお前にーーーー」
「でも、残念」
「へ?」
必死に紡ぎ出した言葉を遮った冷たい声に俺はぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
「俺はもう、“マキ”じゃない」
「え……?それ、どういう…」
「俺は、“雪城”で、お前は“春くん”じゃなくて、“新庄”。もうあの頃の俺じゃない」
「なんで…」
「俺は、お前を苦しめたいんだ。俺に傷つけられて、傷ついて、俺みたいになればいい」
「何言ってんだよ…?」
ただただ、強い憎しみだけが感じられる瞳を俺は怯えながら見つめ返す。
そこには、確かに“マキ”なんて存在しなかった。
目の前にいるのは、“雪城”と言う、編入生だけだった。
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