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怒気ヲ孕ンダ笑顔。
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「伊吹ともあろう大妖怪がお出ましとはおもってなかったぜ」
紅葉は挑発的に嗤う。
危険を感じた尾咲は未だ気を失っている宵を抱え、ひとまず後方へ飛び退いた。
自分ならともかく、宵をここに置いておくにはリスクが高すぎるのだ。
尾咲は紅葉と伊吹を見下ろす位置へ移動し、少々不安そうにその対峙を見守っていた。
<***>
単純な相性であれば、火焔(かえん)を司る紅葉の方が有利であろう。
しかしながら、その摂理を逸脱するのが、伊吹を大妖怪と言わしめる由縁であった。
フィールド変化。
そして『フィールドによる』変化。
それが伊吹の能力として挙げられるものの一つである。
攻撃型の雪男である伊吹は氷雪、ひいては冷気を司っている。
その為、伊吹の周辺は常に冷気を帯びているし、本人自体、触れるものを全て凍らせるというほどの力をも持っている。
それは圧倒的な破壊力であり、れっきとした戦闘手段である。
その伊吹の高い能力は、氷雪や冷気によって生成するフィールド変化能力に加え、自身の居る場所、場面によって効果を変える。
つまり伊吹は寒ければ寒いほど、冷気があればあるほど、能力が増幅するのである。
沸騰したお湯を凍らせるより、冷水を凍らせる方が早く、効率が良いのと同じ原理であるが、伊吹の場合、その場所、時間、季節、天候などによって能力が大きく変化する。
そして今、この場所は―雪山であるここは、伊吹にとって最高のコンディションで、最大の出力で、能力を発揮することのできる場所なのであった。
<***>
「そもそもどうしてこの山に這入って来たのかが疑問なんだよな・・・少なくとも、何かしらの妖怪が居るっつーことくらいは狐の頭でも理解は出来ただろうが」
はたはたと、伊吹の首に巻かれたマフラーが翻る。
さっきからひっきりなしに吹き荒ぶ(すさぶ)凍てついた風は、まるでこの戦いを演出しているかのようだ。
「ただの避暑だが、問題でもあるか?」
軽口を叩く紅葉ではあるが、その額には雪山に似合わず薄っすらと汗が滲んでいた。
「・・・アイツ、伊吹の妖力を前に怖気づいたんじゃねえだろうなぁ・・・。まあ、ここにいる俺でさえ判るから仕方ねえか」
尾咲は宵を抱える手に、一層力を籠めた。
・・・いつでもこの場から離脱できるように。
「・・・万年山に籠もりきりのお前には分からないだろうが、今は夏で、妖界の暑さは尋常じゃないんだ」
「まあ確かに、その辺りは知らないけど。でもどっちにせよ俺はここを荒らされるのが何より嫌いなわけだ」
「お前はこの時期はまた別の山に居ると踏んで来たんだがな。まあ仕方ねえ、ただの山に入るのも許せねえような器の知れてるやつを前に、戦う気はねえな」
ドン。
なんの前触れもなく。
巨大な氷柱(ひょうちゅう)が下方、地面から現れ、紅葉を貫いた。
「あー、心外だ侵害だ。俺の器量をそんな風に言われるとは。いやあ腹が立った。ああ、ぁあああああああああああああッ!!」
それは癇癪(かんしゃく)を起こした子供の様に。
背後から突如勢いを強めた吹雪を纏うように、まるで冬将軍でも従えたかのように。
そこに立っている伊吹の口は、無邪気な弧を描いていた。
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