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増殖ノ思想。
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(緋酔side)
森を抜け、狐の長屋に戻る。
「お前が宵連れていってたのか」
長屋の主人が帰ってきていた。
最近何かをしているらしいこの狐と顔を合わせることがそもそも少ない。
「まあな」
「・・・宵、どうした」
俺の背中で力なくだらりとしているソレを見て、主人は―第一の師匠は表情を陰らせた。
フン、化け狐もそんな顔できるのか。
「寝てるだけだ。道中で寝たからそのまま担いできた」
「体調が悪いのか」
目ざといなあ、この保護者。
保護者というよりストーカーとかなんじゃないか?
「いや・・・まあ」
「何だよ、何があった」
珍しく詰め寄る狐を見て、話すか迷ったが
丁度その時
「ん・・・戻ったな」
「あ?」
その名の通り『風の便り』である。
俺の身体から放った、一種の眷属を情報収集に飛ばしたのだ。
煙呼(えんこ)という技で、身体から煙己(けのこ)と呼んでいる俺の分身のようなものを出す。
煙なので実体がなく、目にも見えないため情報収集などにはもってこいなのだ。
煙己は俺自身と同化することで俺と情報を共有する。
俺に同化した煙己からの情報は
「・・・奪精種(だっせいしゅ)ねえ」
「奪精種、だと・・・?」
あの植物は、植物自体は普通の植物だったのだが、そこに『奪精種』と呼ばれる精霊、いや、妖魔(淫魔)が憑いたものだったらしい。
奪精種自体は下級から中級の妖だが、憑いた植物がそれなりの樹齢をだったために強力化したようだ。
「なんで奪精種なんかが出てくるんだ。説明しろ」
仕方ない。
こんなに怒りを露わにしているのは初めて見るような気もするが。
それだけ大事なら囲っておかないといつかかすめ取られても文句は言えんだろうに。
俺はまあ詳細はぼかしつつ、説明した。
宵が襲われたこと、記憶を失っていること。
襲われた、という部分も性的に襲われたという風には説明しなかった。
「お前・・・どういうつもりだ」
「悪いと思ってるよ。反省だってしてる」
「これから宵に近付くな」
狐は怒っていた。
相当、入れ込んでしまっているようだ。
それを宵自身は気付いていないようだが。
「怖いなあ、お師匠サマ。でも本当に反省してるんだよ。宵は、俺を久し振りに『喰』と呼ばない存在なんだよ。馬鹿みたいな奴で、愚かしいが。でもあの笑顔は悪くはない。・・・もうあんな目には合わせねえ。それに奪精種は今度見たら潰すからな」
本気だ。
次に見たら根本から破壊し尽くしてやる。
だから。
「だから、頼む。俺から奪わないでやってくれ」
ずっと独りだったんだ。
少しくらい、良いじゃないか。
「・・・宵はしばらくは起きねえ。術で眠りを増幅した。俺は帰るが、この話をしたことは秘密だからな」
俺は戸に手をかけた。
「ふん・・・まあ、宵もお前には笑うってことか。宵を泣かせるようなら俺がお前を殺すからな」
その言葉はお互い様だ。
俺は闇夜に煙となって消える。
宵の中に自分を残して。
<***>
(紅葉side)
とうとう緋酔まで魅了したか。
つくづく妖怪に好かれるらしい弟子を見て思う。
コイツは霊帯であることを差し引いてもモノを呼び寄せるらしい。
その結果が俺であり、尾咲であり、大蛇であり、伊吹であり、奪精種であるわけだが。
面倒なことになってきた。
俺だけの馬鹿な弟子のはずだったのにな。
いつの間にか、誰かと一緒にいる。
何かの中心にいる。
そして惜しげもなく笑いかけるのか。
「・・・ん、こうよ・・・」
小さく寝言られた名前を聞いて。
俺はまた苦笑するしかないのだ。
ゆるりと撫でた頬が少し温かかった。
それは人だからだろうか。
それとも。
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