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登坂スル事象。
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また知らない間にバチバチと火花を散らす二人と共に山を登っていく。
心なしか俺の周囲が暖かいような、むしろ薄ら寒いような・・・?
山に登るの好きだよな。
大体山に登ってねえか?登山家なのか?
っていうか山しかねえのかな。
まあこれでテーマパークに連れて行かれても拍子抜けか。
お化け屋敷(ガチ)だもんな。
人気(ひとけ)・・・妖気のない山道だ。
まだ道らしくなってるだけマトモなのかもしれないけれど。
一応人が登ってもいいような見た目ではある。
登れるかどうかは別として。
最近修行で体力がついてきたとはいえ、疲れることには変わりはない。
「何でまたこんな所に」
しかし自然の豊かなことだ。
長閑(のどか)な空気が柔く頬を撫でつける。
美味しいな、空気。
ナントカってやつで星三つくらいはとってるんじゃないか?
「偶(たま)には野外学習も良いかと思ったんだよ」
「へぇ、弟子思いのお師匠サマなんだな」
バチバチバチッ。
また二人の間に火花が飛ぶ。
きたねえ火花だ。
基本的に尾咲が揚げ足を取るから悪いんだけど、だとしても紅葉の沸点も低いな。
やっぱ仲悪いのかここ二人。
じゃあ何で同行するんだ、板挟みになる俺のことも考えろよ。
嫁姑問題に板挟まれる夫ってこんな気持ちなんだろうか。
だとしたらどっちが嫁でどっちが姑なんだろう。
こういうこと考えてるのバレたらどっちからも殴られそうだからやーめた!
こういう時は放っておくに限る。
触らぬナンタラに祟りなしだ。
俺は宛も無く山を登り続けた。
黙々と。
<***>
(紅葉side)
「さて・・・ここらで良いか」
俺が言うと宵が止まる。
宵が止まると尾咲が止まる。
みんなが笑えば世界はハッピー、ってか。
笑えない。
「・・・今日はどんな修行すんの?」
不安と好奇心のないまぜになったような心境らしい。
目はキラキラさせているが体が拒絶反応を示している。
まぁ修行自体は嫌いじゃなさそうだし、それしかやること無いしな。
緋酔のように読心術を使わずとも分かる。
分かりやすいのだ、コイツは。
「そこ座って目閉じろ」
少し拓けた(ひらけた)ソコを指さして言うと、宵は従った。
今回はコントロールと、精神面の強化だ。
前に緋酔といた時に襲われたのも、精神的に未熟なのも原因の一つだ。
もう二度と、そんな目に遭わせたくない。
「集中しろ、力を溜めるつもりで。・・・少し下腹が熱くなってきたか?」
問いながら腹に触れると、宵はピク、と動いて
「ん・・・ぅん」
と、素直に頷く。
それを見て次の段階に移行する。
座っている宵の周りにソレを配置する。
「・・・ん・・・こうよ・・・何か・・・変・・・」
「・・・分かるか。上達したな」
そう、珍しく褒めてやるが、宵はギュッと目を固く閉じて眉間にシワを寄せる。
「これ・・・何・・・?」
泣きそうな声だ。
「ん?あぁ・・・」
俺は『ソレ』を座っている宵の上に置いて笑う。
「『アイツ』だよ」
「ヒッ!!?」
それだけで分かったらしい。
宵の周囲や宵自身の身体の上には、宵が苦手とする目玉妖怪が無数に配置されている。
・・・俺の手によって。
暴れそうな宵に命じる。
「動くなよ。もし動いたりして落としたら・・・分かってるな?」
ドスをきかせた声。
宵は首をブンブンと振って抵抗する。
「い、いや・・・やだ・・・こうよ・・・」
妖怪として、美味そうな反応だな。
もっと聞きたくなるのは、妖怪の性だろうか。
いや、それとも。
「集中しろ、目、開けんな動くな。こういう状況でも力を出せるようにするぞ」
「あ・・・いや・・・だ、こうよう・・・こうよぉ・・・」
少しパニック状態に陥っている。
涙を必死に堪えているらしい。
俺を呼ぶ声が切実で、一瞬手を貸しそうになる。
「・・・鬼畜だなァ、お師匠サマは」
尾咲が茶々を入れる。
少し苛立つが無視だ。
だって、これはれっきとした『修行』なのだから。
少しメンタルが弱い馬鹿な弟子への。
目をつぶっているけれど、その隙間から涙が筋となって流れる。
その間、尾咲は複雑そうな表情をして黙ってそれを見ていた。
その姿を見ながら追加で3分程放置し、まぁこのくらいかと、妥協気味に解放してやる。
開かれた宵の大きな目からは大量の涙が零れた(こぼれた)。
「あぁもう・・・ほら大丈夫か?」
俺よりも早く、尾咲が宵に近付き、下等妖怪を取り払う。
まるで牽制するように。
修行と銘打って宵を泣かせた俺を敵視するように。
見ていられなくなったのだろう。
かなり熱にあてられているらしい。
まあ俺も他人のことは言えないのだが。
その瞬間―強く、ギュゥウウ・・・と音がするくらいに―宵が尾咲に抱き着いた。
心が少し痛んだ。
仕方ないとはいえ、ここまでとは。
それに俺ではなく、尾咲に頼るのかとも。
それが例え、一番近くにいたからという理由だったとしても。
自業自得と言えばそれまでだが。
それでも、尾咲がいなければ、俺がその役目になっていたのだろうか。
・・・本当に?
尾咲は一瞬動きを止めるも、声を上げて泣く宵を戸惑いつつも抱きとめ、その背をあやすように叩き、撫でる。
「ひくっ・・・ぐす・・・う・・・あ・・・ふ」
幼子のように泣く。
身体がガクガクと震えているのが目に見えて分かった。
本当に怖かったんだろうな。
「立てるか?」
その問いに
「ひく・・・あ・・・こ、腰・・・抜けちゃって・・・」
そう尾咲を見上げながら、涙を浮かべて言う。
「マジかよ・・・ったく」
その瞬間、尾咲はより強く宵を抱き締めると、腰を強くもみだした。
「!?ひあっ?!!!あ"、あぅ・・・ん、ふぅっ!?」
宵の声が響く。
俺は何かが『キレた』気がして、力任せに引きはがした。
そのままガクガクと震えるソレを抱き上げる。
「そんなムキになんなよ・・・つか、ちょっと厳しすぎんじゃね」
尾咲が俺を責めるように言う。
実際責めていた。
俺のしている所業を。
その一貫性のなさを。
厳しく突き放すことも、優しく癒すことも。
俺にはできない。
「厳しいと前置きしておいて、ついてきたのはコイツだ」
担いだ肩の上で、宵は何も言わずに痙攣(けいれん)のように震えている。
そして小さく
「ご、めん・・・ごめん、なさい・・・」
そう呟いて、泣いていた。
キリキリと。
心が痛んだ。
それは良心だろうか。
それとも。
徐々にガクガクしたソレが治まってきて、宵は俺の上で身じろぐ。
「も・・・大丈夫だから・・・降ろして・・・」
気恥ずかしそうに、消え入りそうな声で宵が言う。
やっと冷静になってきたらしい。
それほどまでに、さっきはパニックになっていたんだろうな。
黙って降ろすと、宵はバツが悪そうにもじもじとしている。
時折、涙目で俺や尾咲の顔を見上げるが、何かを言うわけでもない。
「・・・そもそもお前は」
いたたまれなくなったらしい尾咲が口を開いた。
俺に向かって苦言を垂れる。
それもいつものことだが。
「これは俺ら『師弟間』の問題だ。口出すな」
尾咲の入るスペースすら作らせない。
ワザとらしい線引きだ。
大人げないし、余裕もない。
情けのない姿だ。
「・・・ムカつくなァ、お前。宵も何か言ってやれよ。・・・あれ、宵?」
「・・・まさか」
姿を消した宵に焦燥感が募る(つのる)。
どちらともなく、俺と尾咲は地を蹴って走り出した。
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