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現実ヘノ帰還。
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「!!?」
目を開くと紅い何かが降っていた。
ぼやけて、滲んで(にじんで)分からない。
「おい」
声をかけられて、俺は視界の端に人の姿を見止めた。
こっちもぼやけてる。
なんでだ。
俺は目元を腕で拭って(ぬぐって)、初めて自分が涙を流していることに気が付いた。
泣いたのなんて、いつ振りだろう。
両親が亡くなった時ですら、泣いた記憶がない。
あまりにも幼くて、理解できなかったんだろうな。
「大丈夫か」
声の主は狐だった。
まぁ、今はあの陰陽服に身を包んだ美人の姿になっていたが。
もう、何もかもどうでもいい。
「・・・夢を見たんだ。寂しい夢」
狐は眼を瞑って(つむって)黙って座ったまま。
「とても綺麗で儚くて・・・帰って来られてよかったって」
そっと瞼を閉じる。
今も淡く思い出せる。
今の自分は、生きているのだろうか。
それとも死んでいるのだろうか。
まるで何事もなかったかのように、俺は紅葉の絨毯の上にいる。
何事もなかったかのように、世界は回っている。
まるで夢だったんじゃないかって。
そう思えるような。
でも違う。
狐の足元にはあの刀が地面に突き立てられていて、まるでそこから生まれてくるように紅葉が積もっている。
この紅葉はもしかして鬼の・・・。
いや、もう。
どうだっていいんだ。
「だって、そこにずっと居たくもなった。ゆらゆらと波に揺られてるみたいで、何だか心地よくて」
悲しいほどに、美しい景色。
「名前を呼ばれた気がしたんだ。その時まで忘れてた、俺の名前」
ゆっくりと息を吸った。
今までの人生で、聞き馴染んでいたはずのその言葉を。
音を、発するために。
すると狐が閉じていた眼を片方だけ開けて貫くように言った。
「言うな。お前は名を明かさないほうがいい」
何でか、とか、もうどうでもよかった。
じゃあそうなんだって、そう思っただけ。
俺は狐のほうを少し見て、口を開いた。
「お前は、何なんだよ」
すると狐は両目を開いて俺を見た。
射貫くような、そんな眼差しで。
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