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異界ト理解。
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ガヤガヤと。
そう、とても賑やかな世界。
これが、妖界。
<***>
「宵、こっちに来い」
「・・・何、紅葉」
妖界に足を踏み入れてすぐ。
自分の師匠であり、妖怪の紅葉に呼ばれて、俺は傍に寄る。
というか、成程。
この世界には意外とよく合う格好だ。
黒髪陰陽服。
妖界への穴は、本当にただの穴って感じだった。
壁に穴が開いていて、それを通って隣の部屋へ抜けただけみたいな気楽さがある。
でも明らかに知らない世界、知らない住人。
空気感もまるで違う。
ここでは俺が異形な存在なんだろう。
「・・・よし」
紅葉が俺の頭の上で両手をかざす。
暖でも取ろうとしてるんだろうか、って感じ。
「え?」
「今お前に術を掛けた。なんでもすぐに絡まれてんじゃ話になんねえからな」
「うん?」
一ミリも理解できなかったんだが。
「妖力がある状態になってんだよ、お前。この世界には溢れるほどに物ノ怪共が居るからな。そいつらは自分たちに深い区別はつけていない。妖力なんかで相手を判断するんだ」
「つまり、今の俺は妖怪みたいなモンってこと?」
「まぁ、そういうことだ。とはいえ、離れるなよ?」
「分かってるよ」
自分自身には妖力とかそういうのがないらしいから、フェイクの妖力を紅葉経由で与えてもらってる感じ、っていう理解で良いっぽい。
「じゃあ、行くか」
「・・・どこに?」
「あ"ぁ?どこって、俺んちに決まってんだろ」
「えっ、あ、えっ?」
家?
お前の?
ってかマイホーム持ちかよ。
「俺だって妖怪なんだから、ここに住んでんだよ。つか住んでた」
「家持ってんの??」
「当たり前だろ」
ほら。
紅葉に急かされて、俺も紅葉のすぐ傍に寄って(半ば纏わり付きながら)、歩き出した。
「アッ、狐の旦那!!久しぶりじゃねえか!!」
「ああ、そうだな」
「アレ、稲荷の旦那、いつ帰ってきたんだい」
「さっきだよ、さっき。丁度目の前で繋がっててさ」
・・・。
なんだろう、すげえ光景。
何か、ああ、紅葉もやっぱ妖怪だなって思う。
呼ばれ方は様々だけど、どれも親しみを感じる呼ばれ方だ。
この辺りの顔役だったりするんだろうか。
「おい、宵。着いたぞ」
「・・・ん、ここ・・・?」
長屋。
何の変哲もない・・・。
ホント、『あっち』と変わんない。
もちろん、長屋なんて今日日(きょうび)あんまり見ないんだけど。
でも噂に聞いてるままって感じ。
日本昔話で見たことある。
で。
その中に入ろうとした時だ。
「アァ・・・?アレ、ウン・・・?お、おお!!稲荷の旦那じゃねえか!!」
「お・・・?お前、矢来(ヤライ)じゃねえか。久しいな」
矢来。
そう言われた相手は。
「・・・猪?」
そう。
二足歩行の猪(いのしし)みたいな、そんな。
頭はどう見ても猪。
かなり大柄で、ガッチリどっしりした体格で。
でもって二足歩行で、着物を着ている。
手や足は、深く剛毛に覆われているが、その傍らにある、大きな斧(おの)を見る限り、人間に近い手足をしているんだろうか。
大きな牙に、厳めしい(いかめしい)顔つき。
RPGに出てきそう。
主に敵役で。
「って、おい旦那。アンタのその後ろで縮こまってるソレは・・・あ、アンタソレ・・・」
「・・・アレは俺のだ・・・手ェ出したら、お前でも殺す」
・・・師匠は。
ドスの利いた声色を聞く限り、本当に俺のことを護ろうとしてくれているようだ。
「・・・ホォ。成程。アンタも意外なとこあるんだな。まぁ安心しな、アンタのモノに手ェなんて出さねえからよ」
そんなおっかねえことすんのは・・・。
そこまで言ってから、矢来、とかいう猪は黙った。
「・・・まぁ、兎に角(とにかく)。そこの。名前はなんてんだ」
いきなり話しかけられて、俺はきょどりながらも答えた。
「よ、宵です・・・。紅葉の、弟子です」
「宵・・・それに、紅葉、ねェ。ハハ、旦那も変わったなァ」
「いいだろ、そこは。面倒だし、付き合っているだけだ」
「いやァ、弟子思いの御師匠さんで結構なこった・・・宵、でいいな」
「は、はい」
「そう固くなるなよ。俺は矢来ってんだ。そこのお前の師匠のダチみてえなもんだ」
陽気に笑って。
矢来サンはそう言った。
「矢来さんは、優しいひとなんですね」
「おお?いや、マァ・・・。いや、いやいや。宵よ、お前、妖怪を知ったふりしてると痛ェ目、見るぞ」
「・・・そうですね、そう思います。でも、矢来さんはきっと優しいひとなんだって、そう思うんです」
「・・・ホォ、変わった奴だな。・・・ナルホド、旦那・・・いや紅葉の旦那が気に入るわけだ」
矢来さんの厳めしい目が優しく微笑む。
「俺もお前のことは気に入った。よし、宵。俺とお前はこれからダチだ!!いいな」
「だ、ダチ・・・」
面食らった。
いや、何にって、そりゃ。
妖怪、さんにこんな風に受け入れてもらえたことが。
「あ、ありがとうございます!!」
「ハハ、元気なことは良いこった。よろしくな、宵」
「はい!!」
「・・・そろそろ行くぞ、宵。荷物だけ置いて行け」
「え、あぁ・・・?」
「矢来、お前どうせここにしばらくは居るんだろ。荷物見とけよ」
「ああ、任せろ。・・・じゃあな宵。気をつけてナ」
こうして、またいくらか身軽になった俺と紅葉(紅葉は基本的にその場その場に何やらを出現させるので基本的には手ぶらだが)は、再び、妖怪の世界を歩き出したのだ。
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