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会話ト笑ミ。
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「ッ!!」
頭がキィン・・・と痛んで、俺が思わず目を固く瞑った(つむった)その瞬間。
「!!お前!」
目の前にいたのは、紫のニット帽のイケメン化け猫。
「俺は斑。またの名を、尾咲」
「ッ尾咲だ!!猫又の尾咲だ!!」
「何だお前ら。楽しいこと、すんじゃねえのかよ。ほら・・・相手になるぜ・・・?」
「逃げろ!!逃げろォ!!!」
バタバタと。
忙しなく(せわしなく)足音を立てて、妖怪三人衆は逃げて行った。
それを見送りながら、斑・・・いや尾咲は溜息をついた。
「ったく・・・見境ねえなあホント。おい、宵?大丈夫か」
「・・・」
「ほら、しっかりしろ」
尾咲に手を差し伸べられた。
掴もうか、躊躇(ちゅうちょ)している間に
「ぅわッ」
グイッっと手を引かれた。
「あ~、心配すんな。別にもうお前を襲う気はねえからよ」
「・・・詐欺だ」
「あ"?」
「だ、だって!!あの猫がこんな・・・」
「こんな?」
「い、いや何でも・・・」
癪(しゃく)だから言ってやんない。
イケメンだなんて。
ちなみに今だいぶと混乱はしている。
尾咲=斑ってことだよな。
見た目違いすぎる。
いや、三毛猫の猫又って時点で気付くべきだったんだけど、なんせ尾咲のイメージが「イケメン・猫耳・紫色」だったから、
猫にしてはだいぶデカいとはいえ、小学生くらいのサイズの二足歩行猫になると別のインパクトに持っていかれるのだ。
ていうか。
「ち、近い・・・」
不意に手を引かれたから、俺は尾咲のすぐ傍にいて、尾咲の方が若干、若干!!背が高いから俺が尾咲の下から覗き込むみたいな感じ。
あ、それも癪だな!!
「・・・」
尾咲が俺の顔をじっと見つめた。
「な、何・・・」
「・・・いや。お前、水浴びでもしたのか?びしょ濡れじゃねえか。ああ・・・それでか」
「??」
「だから・・・水被ったから俺のにおいが消えてんだろ。それでバレた」
「あ、そうか・・・ナルホド」
「ナルホドじゃねえよ・・・ったく」
「ぉわッ!?」
あの近さから、また腕を引かれた。
というか抱き寄せられた。
「ちょ、お、尾咲・・・」
「黙ってろ」
尾咲の腕の中。
なんで、こうなった・・・。
なんで俺は今猫耳生やしたイケメンに抱きしめられているんだ。
何かわからんけど泣きそうだぞ?
「また付けとかねえとバレるだろうが」
「そ、そりゃそうかもしれねえけど・・・」
くっそ、イケメンめ!!
そういうのは女の子にやれよ!!
あ、女の子と言えば。
「さ、さっきのコ、どうしたんだよ」
「さっきの?」
「ほら、『雨堂』の・・・つか、長い!もういいだろ・・・?」
「良くねえよ。お前一人じゃなんもできねえだろ」
「・・・」
「・・・さっきのコはあのまま放ってきた。別に構わねえだろうが」
「まぁ、そりゃ・・・」
可愛かったのに。
ていうか近い。
声も近い。
耳元で喋んな。くすぐったい。
極度のくすぐったがりという俺の初期装備の設定を忘れんな。
この装備は外せません。
「・・・ほら、風邪ひくぞ」
尾咲が例の裾の短い紫色の着物で俺の顔とか拭いてくれた。
「このまま紅葉の家に戻れ。戻って着替えろ。その頃には俺のにおいも消えてるだろうが、あの家にいるだけで紅葉の妖力がある程度付くはずだしな。矢来も帰ってきてるだろ」
ちなみに矢来さんは別に同居しているわけではなく、紅葉と仲がいいが故に頻繁に出入りするから紅葉の長屋にいる確率が高いだけである。
矢来さんは矢来さんで、同じ長屋の並びに住んでいるそうな。
「・・・うん」
「・・・何だ、怖かったのかよ」
「べ、別に、そんな、こと・・・ねぇッ、けど・・・!!」
うわ、何だこれ。
なんで、俺、泣いてるんだよ・・・。
「・・・ったく、阿呆はこれだから・・・」
「阿呆じゃねえ・・・」
そんなことを言い合いながら、俺は尾咲の腕の中でグスグス泣き続けた。
なんだか衝撃がいっぱいで、俺自身がいっぱいいっぱい、って感じ。
混乱ここに極まれり。
泣く俺と、それを抱きしめる猫耳イケメンという混沌の画がそこには広がっていた。
状況としてはこれ以上なくとっちらかっている。
昨日の敵はなんとやら、ってやつだろうか。
この場合は何になるんだろうな。
友、というにはいささか距離感が不明すぎる。
混乱した頭で、俺はそんなことを考えていた。
<***>
「なんで俺のこと助けてくれたんだよ?」
帰り道を歩きながら、俺は尋ねる。
飴菓子を食べながら、だ。
「なんでって、マァ・・・俺の名前を褒めてくれたから、かな」
「何だソレ」
ちょっと笑いながら話して、そのうちに紅葉の家に着いた。
着くころには飴はすっかり無くなっていて、口の中がほんのり甘かった。
「・・・じゃあな。矢来によろしく伝えといてくれ」
「おう・・・」
尾咲が、歩き出そうとした時。
「ちょ、ちょっとまって」
「・・・あ?」
尾咲の腕を掴んで、下からちょっと見上げながら。
「最後に、もう一回。お前の妖力付けてくんね?」
「・・・はぁ、一回だけな」
そう言うと、尾咲は俺のことを軽く抱き寄せると
「もう、ヘマすんじゃねえぞ」
そう耳元で呟いて、軽く頭をポンポンってして帰って行った。
「またな」
俺の声は、届いただろうか。
<***>
「帰ったぞ」
「あ、お帰り紅葉」
紅葉は結構遅くに帰ってきた。
遅くにって言っても、この家には時計とか無いから外の暗さでだけなんだけど。
「矢来は」
「ちょっと前に帰ったよ」
「そうか」
部屋に上がるなり、俺を見た紅葉は何だか不快そうに顔をしかめると俺を傍に呼んだ。
「お前・・・尾咲と会ったか」
「え?いやまあ・・・うん。甘味処に連れてってくれた」
「馬鹿、アイツは・・・」
「前にも言ったけど、尾咲はそんな奴じゃない。俺を襲う気はもう無いって言ってたし、今日も俺のこと助けてくれたし!」
「あの尾咲が助けた・・・?まぁ、いいか。ちょっとこっち来い」
「・・・何だよ」
あ、この感じ。
妖力、かけてくれてんのか。
「あんな猫風情よりも、俺の妖力の方が強い」
「分かんねえよ?尾咲だって強い」
「・・・もう寝ろ」
紅葉と並べた布団の中。
「飴菓子が美味しかったんだ」
「そうかよ」
「今度、紅葉も一緒に行こうぜ」
「・・・今度な」
「行かねえなら、俺尾咲と行く。結構楽しかったし」
「・・・ちゃんと近いうちに行ってやるから、今日はもう寝ろ」
「・・・はぁい、師匠サマ」
「これからは一人で歩き回るな、特に夜は絶対にな」
「・・・ぉう」
そこからの記憶はもう無い。
<***>
(紅葉side)
「・・・」
隣で、規則的に聞こえてきた寝息を聞きながら、俺は寝返りを打った。
ちょっと家を空けているうちに尾咲と接触するとは思ってなかった。
何がって、あの尾咲が宵を相手にしたことがだ。
確かに宵を襲うつもりはもう無いんだろう。
もとから、あれだって『持て余してる方』だしな。
前の襲撃だって本当にただの暇つぶしだったんだろう。
けどそうなったらそうなったで、いささか不思議というかなんていうか。
「・・・全く。変な奴ばっかり寄せつけやがって」
胸のモヤモヤとした何かを払拭するように。
俺は弟子の後を追うように眠りについた。
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