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意図ト糸。
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尾咲・・・またの名を斑。
この猫又とは、飴屋に行ってから割と親しくなった。
紅葉と一緒にいるときは、何故か紅葉がイイ顔をしないので、極力話題に上らないようにしているけど。
それでも、紅葉はかなりの率で家を空けるので、その度に尾咲を探しては話をするのが楽しみになっていた。
その日も、朝から紅葉が出て行ったのを確認して、俺は家を飛び出した。
まあ、紅葉には一人で出るなとは言われているが。
いつまでも引きこもっているのも辛い話だ。
<***>
路地のあたりをうろついていると、正面から人が歩いてくるのが見えた。
人っていうか、妖怪なんだけど。
二足歩行のデカい犬みたいな異形の姿だった。
ちょっとドキッとしつつ、俺はあえて堂々とした態度で歩く。
すれ違う瞬間。
「あ"?おい今何か匂わなかったか」
「!!」
ヤバい!
その瞬間、体が浮いた。
「!?むぐ」
「黙れ」
聞き覚えのある声に反応する間もなく、俺の身体はそのまま乱雑に引っ張られる。
「・・・いや、気のせいだろ」
「そうだな」
足音が遠ざかるのを聞いてから、俺は口を塞ぐその手から解放された。
「ぷはッ!っ、あ、尾咲!」
「阿呆」
ボカっと、頭を小突かれて、俺はムッとした表情を向ける。
「何だよ、殴んなよ」
長屋と長屋の間の薄暗い所・・・アレだ、某シルバーソウル漫画でよくある路地。
あんなところで、俺は尾咲と再会した。
「俺がいなかったらお前喰われてんぞ」
「でも尾咲助けてくれたし」
よく見つけられたよな。
それともすぐ見つけられるくらいに俺の存在ってダダ洩れだったんだろうか。
紅葉は俺が一人で外に出るのを嫌がるので、わざわざ外に出る必要もないからと、あまりダミーの妖力をかける作業を最近はしてくれていない。
勝手に出ていかないようにの釘差しなのかもしれないけど。
それでも、かなりの強キャラらしい紅葉と同じ空間で生活しているだけで、匂いが移るかのように僅かながらも俺の身体に薄く紅葉の妖気が付いていることには気が付いていた。
だからこそ、変におどおどしないように気を付けながら、できる限り人気(ひとけ)・・・というか妖怪気のない道を選びつつ歩いてきたんだけど。
無駄だったか。
むしろ人混みならぬ妖怪混みに紛れた方がまだしもマシだったのかもしれない。
まあどちらも結果論に過ぎない。
もしかしたら気付かれなかったのと同様に、もしかしたら今既に食べられていたかもしれないのだから。
尾咲に出会えただけ幸運だったということだろう。
もう尾咲には俺を襲う意思はない、と。
先日申告を受けているのだ。
今は捕食・被食の関係ではなく。
友人関係。
・・・そう、俺は捉えている。
それに関しては、俺の願望と希望があるけれど。
それでも少なくとも。
助けてくれたことを思えば。
悪い印象ではないのかもしれなかった。
友人関係に、契約書は無いのである。
思ったもの勝ち、好いたもの勝ちだ。
「そういうのが阿呆だってんだ。紅葉に同情するぜ」
「なっ!」
とはいえ、尾咲の軽口というか。
辛辣さが失われたわけではないのだが。
むしろ酷くなったともいえる。
親しくなればなるほど、言動を包み隠さないタイプのヤツだろうか。
まあ表情には。
初対面の時のような、悪意や・・・敵意は。
ないから安心していいのだと思う。
「せめて、もうちょい霊力コントロール出来るようになってから歩き回れよ」
「だって・・・紅葉、お前に会うと嫌な顔するし・・・俺、お前と話したくて・・・だから・・・」
「・・・ハァ。分かった、分かったから。泣くな」
「な、泣いてねえし!!」
活字でしかお届けできないんだからな!?
お前のその言葉で、画面向こうの素敵な方々の能内にはイメージ画像が発生するんだからな!!?
自分の言動には責任を持て!!
大人なんだから。
大人、だよな?
見た目は青年だし、十代後半か二十代前半、みたいな感じだけど。
多分、紅葉と同じで、最後に見た景色が数百年前ってことが普通に有り得るだろお前ら。
猫としても。
成猫のはずだ。
アイツら、二歳で大人のはずだから。
「黙って背中向けろ」
そこで尾咲は唐突にそう言ってきた。
「?なんで?」
「いいから」
尾咲に言われて、俺は渋々尾咲に背を向ける。
疑問文には理由となる答えを述べなければならない、と。
ティーチャー星野(学校の英語の先生)に教えられたんだけど。
Becauseはないまま。
話は勝手に進むのである。
「いくぞ」
「へ?うぁ!!」
脈絡もないままイケメンに背後からがっしりと抱きしめられ、俺は半パニックだ。
ただでさえ、尾咲に妖力付けてもらうとき緊張するのに。
後ろからだし、不意打ちだし・・・!
「ちょ、なにおさ・・・ひゃっ!?」
ペロリと。
首を舐められた。
「ちょ、ま、おさ、尾咲!!」
「・・・」
ペロペロ。
「あ、や、まっ、おさ・・・」
「・・・」
ペロペロ。
なんで俺の首舐めてんの!?
ていうか、尾咲がおれをがっちりホールドしてるせいで逃げらんないし!!
つかやんなら猫の時の、斑の姿でやりゃあ良いじゃん!!
「ひぁッ・・・や、やぁ・・・」
「・・・」
「ッ!ぁ、あ、や、っう」
「・・・」
人型とはいえ猫なんだと思わせる。
少しざらざらした舌の感覚に身悶えしていた時。
カプリと。
「うぁッ!?尾咲、い、痛・・・」
さっきまで舐められていたところを軽く噛まれた。
あ、やっぱ猫なんだって感じの鋭い牙。
「・・・ん、ふ」
「・・・チュ・・・ぷ」
血・・・吸ってる・・・?
「っ、はぁ・・・あ、あ・・・」
「チュ・・・ジュル・・・ツぷ」
あぁ・・・何か、変な気分・・・。
くすぐったいというか、気持ち悪いというか、気持ちいいというか。
身体の中をかき混ぜられているような。
身体が液体になってしまったかのような、そんなよく分からない感覚。
力が抜ける。
気力が失われる。
「ひっ・・・ん、お、さき・・・おさき、ぃ・・・」
「・・・チュパッ」
その時、口が離れた。
「ッ!!う、ぁあ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」
ズルズルと、身体に力が入らずにへたり込む俺を尾咲は抱きかかえなおし、グッと身体を引き寄せた。
「大丈夫か」
っみ、耳元で喋んな!!
「だ、大丈夫な訳あるかぁ・・・!!」
息も上がっちゃってるし、涙出てきたし。
「俺の唾液をお前の血に混ぜた。応急処置だが、前より絡まれにくくなるだろ」
「・・・はぁ、あ、はぁ・・・」
今までの『外から』のダミーではなく、『内から』のダミーなんだろう。
それはなんとなく理解できたけど。
身体に力が入らない。
「んッ、は・・・は・・・」
必死に息を整える。
学校で真冬に走らされていた2000m走だって、こんなに辛くなかったぞ。
っていうかあの時期のあの運動って、もはや体罰として訴えてもいいレベルじゃないだろうか。
あと真冬の縄跳び。
あの縄でどれだけ自分を傷付けたか。
「(・・・何か、イケナイことしてるみたいだな、コイツ)」
「尾咲・・・力、入んないんだけど、何か俺にした・・・?」
「だから泣くなって」
「ない、て、ない・・・ぅ」
「はぁ・・・しばらく支えててやるから、落ち着け」
ギュウっと抱きしめられて、俺はますます混乱してくる。
よく分かんないけど、前より安全になったんだろ・・・?
「なぁ、・・・はぁ、尾咲ィ・・・」
「・・・なんだ」
「これで、俺、お前に護ってもらわなくても平気?」
「・・・完全じゃない」
「これで俺、お前に迷惑、はぁ・・・掛けない・・・?」
「・・・迷惑とか、考えなくていい。今は。お前は他のとは違う力を持ってるんだし、そこまで気負わなくていい」
「でも俺・・・んぁ!」
そこで無理やり尾咲が俺の言葉を制する。
「いいから黙れ、舐めるぞ」
「や、やだぁ・・・」
勝手な奴だ。
勝手だけど、でも困らせたいわけでも傷付けたいわけでもない。
それが伝わってくる力加減で。
俺のことを抱きしめている。
なんで俺抱きしめられてんだっけ。
「・・・早く息整えろ。狐野郎が帰ってくる前に俺と話したいんだろ?」
「・・・ぁ、っ、う、うん・・・」
だいぶ落ち着いてきた。
と、思う。
「しかし、仕方ないとはいえ、お前も嫌だろ。何回もヤロー同士で抱き合って」
お前、も、ね。
「・・・俺はそこまで嫌じゃないよ。尾咲だから」
そこに敵意も悪意もないから。
「・・・そうですか。お前はやっぱ阿呆だな」
「阿呆、阿呆言うな!!やっぱ嫌い!!」
「そうですか」
「・・・嘘。嫌いじゃない・・・」
「阿呆。で?今日はどこに行くんだ」
「あ、えっとな!!」
その後、俺と尾咲は色んなお店巡りをしてから別れた。
主に甘味である。
矢来さんへのお土産も買った。
とはいえ、俺はこの世界の貨幣を持っているわけではないので、尾咲の奢りだったが。
曰く、最近ご無沙汰だからこっちの安否確認も兼ねて渡しといてくれ、だと。
そういえば、紅葉とはあまり仲が良いってことではないようだけど、紅葉の友人である矢来さんとは仲が良いんだよな。
敵の友は友なんだろうか。
そんなことを思いながら。
ご機嫌で帰った俺を待っていたのはあからさまに不機嫌な師匠、紅葉だった。
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