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蛇狐ノ仲。
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「対象だけを燃やす焔(ほのお)・・・久し振りだなあ、狐」
男はそう、紅葉を見て嗤った。
それを見て、紅葉はニタァ・・・っと嗤うと
「尾咲!ウチの馬鹿弟子ちょっと見とけ!」
そう叫んで、俺をドンッと突き飛ばした。
瓦の屋根の上である。
盛大にバランスを崩してつんのめる俺。
「うわっ」
すると、ボスッとまたもや何かに受け止められ
「・・・大丈夫か、宵」
「うぇ、尾咲・・・?」
その相手が尾咲であることを知ったのだった。
<***>
「それにしても、狐野郎も狐野郎だよな。類は友を呼ぶっつーか・・・はた迷惑な話だ」
尾咲は抱きとめた俺の向きを、自分と同じ向きに変えながら言った。
ちなみに、まだ俺は尾咲の腕の中にいる。
後ろから抱きしめられている、というか、腕をまわされているような状態だ。
「あ・・・ごめん。俺のせいで」
「あ"?・・・阿呆。別にお前のせいだとか思ってねえよ。そもそも敵対した時点で分(ぶ)が悪いし、もっと言うなら敵対した相手が悪い」
ああ、そういうならそれは確かに、『あんな奴』に目をつけられたお前も悪いってことにもなるのかもしれねえけどな。
そう、尾咲は確かに言った。
「あんな、ド変態の化け蛇に、な」
<***>
「大蛇(おろち)。皆はそう、呼んでる。この場合の皆ってのは、あのクソオヤジを知っている奴全般のことを指すんだが。それくらい、あいつの悪名は知れ渡ってんだ」
紅葉と相対する男を見ながら、尾咲は説明した。
「悪名?」
「さっきみたいに。お前がやられたみたいに、アイツは自分の嗜好趣味(しこうしゅみ)で、ああいうことをするんだよ。もっとも、『こんな事』をしたのは、俺が知る限り今回が初めてだけどな」
「こんな事って・・・セクハラ?」
言いながら、また嫌になってきた。
殺されるのと同じくらい。
っていうか尾咲達見てたのか。
それで急いで助けに入ってくれたのかな。
二人の前で痴態を晒すことになるとこだったな。あぶねえ。
「じゃあ、紅葉はそれを知ってたんだ」
「いや?違う」
はっきり尾咲は俺の言葉を否定した。
「アレとクソオヤジはまあ、腐れ縁みてえなもんだ」
「腐れ縁・・・」
ふと、視線を向ける。
屋根と屋根の隙間と、その上を月を背に駆け回っては攻撃を繰り広げる二人・・・なんというか、ドラ〇ンボールみたいな戦闘を見ながら、俺は、何をしたらこんな高戦力な二人が戦い繰り広げる縁になるんだろう・・・。
多分〇カウターがぶっ壊れるレベル。
とか、そんなことを呑気に考えていた。
尾咲の腕がすぐ傍にあるからかもしれない。
だから安心しきっているのかもしれない。
何をしたら、なんて。
俺が攫われた(さらわれた)からに他ならないのに。
「よし、先に帰ろうぜ、宵」
「えっ、そんなことしていいのかよ。というか、紅葉が俺のこと頼んでなかったか?何かこう、侮辱しながら」
「頼んだってことは、俺の好きなように行動していいってことだろ。ほら、行くぞ」
「いやいやいや」
独特の考えだった。
もはや独尊だった。
そのまま天上ならぬ天井部分から飛び降りる尾咲。
俺を抱えたまま器用な事だ。
猫の着地は失敗しないと聞くけれど。
「・・・どっちにせよ、アイツらに決着なんかつかねえよ」
「え?」
尾咲は俺の腕をつかんで、本当に戦地から早々にリタイアしつつ続けた。
「『アイツらの力は五分五分』だからな」
<***>
所変わって、長屋。
紅葉の、である。
その紅葉と俺が同居してる長屋の中で、俺は尾咲とくつろいでいた。
いや、本当にくつろいでいるのは尾咲だけだったが。
両足を伸ばして、後ろに手をついて、まるで実家のようなくつろぎ方だ。
紅葉は尾咲を警戒していたけれど、案外一方的なものだったのかもしれない。
もしくは。
和解でもしたのだろうか。
だからこそ、紅葉は尾咲を連れ立ってきたのかな。
とか色々考えながら。
まあアイツがキレたの尾咲と俺が会ってたからとかいう謎の理由だったんだけどな。
原因も原因。
っていうかなんでそんなことでキレたんだろう。
放っておきそうなものなのに。
俺は一応尾咲にお茶を淹れてやりながら聞く。
「なあ、尾咲。さっきの続き」
「続き・・・?いや、そんなもんねえけど」
「ないって・・・でも何か知ってるんだろ」
「あんまり知らねえよ。知ってるのは、アイツらが同郷の出ってことと、蛇狐(だこ)の仲って言われるくらい仲が悪いってことくらいだ」
同郷?
紅葉ってあの霊山にいたから妖怪化したんじゃなかったっけ?
「ああ、妖怪になったのはそうだがその後妖界に来て妖怪として過ごした郷が一緒なんだよ」
その説明に納得いったような、いかないような。
「っていうか蛇狐の仲?・・・あぁ、犬猿の仲みたいなもん?」
「そう。蛇と狐だから蛇狐。とはいえ、アイツらはそもそも規格外の力を持ってるんだから、あの喧嘩に巻き込まれただけで低級は死ぬ」
「うわ、迷惑」
「だろ。だからああいうのは撤退して正解・・・お?」
決して低級じゃない尾咲が離脱したのは、俺が低級だからってことになるんだが。
「??」
そこで尾咲は話すのをやめて、俺から視線を外した。
俺の斜め後ろ。
長屋の扉の辺り、である。
「ん~、いや、帰ってきたみてえだぜ。お前のお師匠サマ。さてさて、決着はついたのかねえ」
茶化すみたいにいいながら。
実際からかっているのかもしれない。
いい齢(とし)して喧嘩してるんだから。
その瞬間、長屋の扉が開いた。
「はいはいお疲れさん」
「お、おかえり・・・」
のんびりくつろぐ尾咲と、申し訳なさと、なんというか気まずさに身を縮める俺。
「・・・ハァァアアア」
その光景を確認してから、長い溜息を吐いて(ついて)から、紅葉は、じろりと俺を見た。
「っ」
「・・・まあ、もう分かったと思うが。これからは絶対に、夜一人で出歩くな。いいな」
「・・・はい」
怒られた。
完全に釘を刺された。
でもまあ。
そう、紅葉は続けた。
「無事で良かったが」
「ぶ、無事ねえ・・・」
正直、結構危なかった気がするんですが。
何がっていやまあ色々。
俺も、アイツも・・・。
「で。尾咲、テメエなんで先に帰ってんだ」
「戦略的撤退だって。あのままあそこにいたら俺ら死んでたかもしんねえし」
「あ"?」
「ほら・・・思慮(しりょ)の浅い、力を持て余したお二人のせいで。巻き添えくうのはごめんだぜ。それに、俺は宵を任せられたんだから、安全に気を遣うのは当然だろ」
「ほほう」
火花散ってね?
なんか険悪じゃね?
お前らもかよ。
蛇狐とか言ってる場合かよ。
この場合は何だ、『猫狐(びょうこ)の仲』か何かになるのか。
結局和解はしてなかった、ってことか?
俺のカンも鈍い。
「・・・って、オイ。お前ら喧嘩すんなよ、俺蚊帳の外じゃねえか」
「お前がその中心でもあるんだが・・・まあいいか。俺の馬鹿弟子は鈍ぅく出来てるらしいし」
「はっ、お前はどうせ一生師匠立場から抜け出せねえんだよ阿呆が」
「よし、まだ暴れたりねえし表に出ろ」
「・・・おい」
俺は二人の頭に拳骨を落とした。
未だにアウトオブ蚊帳。
いくら・・・ちょっと!!ちょっとだけ!!!の身長差があるとはいえ、胡坐(あぐら)をかいて座っている馬鹿二人に拳骨を落とすのは容易だった。
鈍い音が二つ。
「って!」
「・・・なにすんだ」
「近所迷惑になるからやめろダブル馬鹿」
今何時だと。
いや妖怪からすれば今が活動時間だったりするのか?
分からんが。
でも結構みんな日中に活動してるっぽいんだよな。
人間の昼夜とはまたわけが違うのかもしれない。
「あ"?師匠に向かって生意気言ってると痛い目見るぞ、宵」
「・・・ま、そこは俺も賛成だな」
じりじりと間合いを詰められる。
標的が俺に完全にシフトしている。
なんてこった。
めっちゃ怖え。
だって顔がマジだもの。
二人の腕がこっちに伸びて来たところで
「ちょ、おい。そういえば大蛇・・・?ってひとはどうなったんだよ」
機転を利かせた俺のその一言で、二人は手を止め
「あ、それ俺も知りてえ。今日こそ決着つけたんだろうな」
尾咲が乗った。
「馬鹿野郎、いつも俺の勝ちに決まってんだろ。逃げられただけで」
・・・助かった。
話題を変えられたことに安心しながら、俺もその回した舵の方へ話を切り替える。
「・・・なあ、また来ると思うか?」
「さあな。来たらまた追っ払うが」
「でもアイツ何か宵のこと気にいってたみたいだぜ?お師匠サマ」
尾咲は楽しそうだが俺は楽しくない。
それは紅葉も一緒らしい。
「とにかく。一人になるなよ」
「・・・はい」
やっぱりお説教だった。
まあこれに関しては俺も悪い。
俺が悪い。
「で」
「!?」
また、紅葉が俺に腕を伸ばしてきた。
今度は防げない・・・!!!
すると、紅葉は俺の服の破れた部分を摘まみ
「・・・服」
そういうと、その今着ていた服を脱がせてきた。
というか、焼いた?
青い炎で、俺の服だけが燃える。
やっぱり熱くない。
どうやら何か燃やす対象を選べる炎らしい。
便利なことである。
焼肉とかしたら火加減バッチリになるんじゃないだろうか。
ちなみに俺は、こっちに来てから、尾咲と甘味処の雨堂行って水ぶっかけられて服を着替えて以降、ちゃんとした着替えはしていない。
というか服がなかった。
「大胆だなァ、お師匠サマは」
そんなからかうような尾咲の声を聴きながら、ちょっとムッとした表情のまま、紅葉はボッと紅葉(もみじ)と共に何かを出現させた。
それは
「・・・作務衣(さむえ)?」
紺色・・・それも黒に近いくらい深い色の。
それを俺に突き出す。
「え?え?」
事態が良く呑み込めない俺に痺れを切らしたのか、呆れた(あきれた)のか、紅葉は俺にそれを着せた。
「お前の服だよ」
ピッタリ・・・というより、ほんの少し大きめだけど。
「あ、ありがとう・・・」
照れ交じり、驚き交じりでそう言えば
「・・・ま、ちょっとは見られる格好にはなったか」
そんな風に言う俺の師匠。
「お~、似合ってんじゃねえの?」
そういう尾咲。
「ありがとう、尾咲・・・」
今度は普通に照れた。
照れ笑いを浮かべるしかない。
「大事にするな、紅葉」
「・・・いつでも造れるがな。まあそうしてくれると手間が省けて助かる」
そのまま、俺は新しい衣装をゲットし、三人で話しながら夜は更けていったのだった・・・。
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