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料亭。side凪
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辺りが暗く沈み始めた夕方。
「こちらです」
淡い色の着物を着こなした仲居さんに、琴の音が響く座敷に案内される。
すごい……
辺りを見回しそうになって慌てて自分をいましめる。
先生が約束忘れてるかもなんて考えてごめんなさい。
先生に連れて来られた店で分かった。
これは、ガチだ。
「よく似合ってるよ、ナギ。それにして正解だった」
「ん…そぉ?」
先生の言葉に自分の体を見下ろす。
帰ってくるなり先生に渡された紙袋に入っていたのは、ネイビーのジャケットとコットンパンツ。それに真っさらなシャツだった。
着替えてねって言われたけど、ドレスコードだったのか…
あんまりあっさり言うから分かんなかった。
「っていうか先生も…その、かっこいい、から」
「そうかな、ありがとう」
なんて笑顔を向けらて、顔が赤くなるのが分かって恥ずかしい。
先生は青いシャツに黒いジャケットを着て、ネクタイをビシッと締めていた。
医者って白衣の下は基本的に服装自由らしいから、ネクタイって初めて見るんだよな……
うぅ、悔しいけど嫌味なぐらい似合ってる。
しばらくすると料理が運ばれてきた。
彩取り豊かな旬の食材を使った一皿で、えっとなんだっけこういうの……"先付け"だっけ。
客に何回かこういう高級料亭に連れて来られたことがあるけど、その時にマナーとか聞いといて良かった。
何も知らなかったら絶対今以上に緊張してたし…
料理の味どころじゃなかった、多分。
先付けに始まって、お凌ぎの飯蒸し、お椀、そして向付。
次々と運ばれてくる料理はどれも絶品で、やっぱりだけどすごい高そう……
でも美味しい!!
「ナギはすごく美味しそうに食べてくれるから、連れて来甲斐があるね」
八寸、焼き物、炊き合わせ……と食べ進んで、コースの締めくくりであるご飯を半分ぐらい食べたところで、先生が嬉しそうに言った。
「だって美味しいし……でも良かった」
「何が良かったの?」
「や、先生が約束忘れてたんじゃないかって心配してたから…」
おそるおそる言うと先生が噴き出した。
「まさか忘れる訳ないよ。僕の方こそナギは忘れてるんじゃないかなって思ってた」
「うわ酷っ!覚えてたしー」
唇を尖らせて反論すると、先生が柔らかく微笑して首を傾げた。
う、だからその顔は心臓に悪いんだって…!
「それで、返事は貰えるのかな?」
「……」
先生の声は真剣だった。
目を合わせていられなくなって目を逸らす。
「ナギ、こっちを見て」
先生が多少強い声音で言うけど、無理無理見れないって…!
ナギ、と咎めるように名前を呼ばれる。
「へ、返事!決めたから…」
先生が軽く息を飲んだ気配がした。
「…聞かせてもらえる?」
気持ちを落ち着かせて、ようやく視線を合わせる。
先生の目を見るとせっかく固めた決意が揺らぎそうになるけど……
がんばれ俺!!
すうっと息を吸って口を開く。
「……俺はやっぱり先生とは付き合えない」
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