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かたん、という音を聞いて、意識が浮上してきた。瞼をあげると、カーテンの向こうに誰かいるらしい。看護士だろう、と再び目を閉じようとしたが、カーテンが開けられ見えた姿に、目を疑った。
母さん。
声にならない声で、その正体を口にする。血の繋がらないお世話になっていた母が、何も変わらない目で、血の繋がらない私を蔑む目で見ていた。
なんで、ここに。
「久しぶりね。病院から連絡がきたと思ったら、あんたが入院したって。死にかけているかと顔を見にきたのに、のうのうと生きているなんて」
変わらない。
家を出た5年ほど前まで向けられてきたものと変わらない。
「──さっさと、死んでくれないかしら」
何度もその言葉を聞いてきた。
私は、何かが吹っ切れたかのように、重い体を無理矢理起き上がらせて、自嘲するように笑みを浮かべた。
「じゃあ、殺してくれますか」
そう言うと、母は驚きの顔をした。何て顔をしているんですか。貴方がずっと望んできたことじゃないですか。
見舞品と共に置かれている果物ナイフを取り出し、汚れひとつない刃を出していく。
まだ固まっている母の手を取り、ナイフの柄の部分を握らせて私の首もとに刃を当てる。
病院の過失を言うなら、精神患者のもとに自殺できるようなものを置いたことだ。
「どうしたんですか? 貴方がそれを引くだけで、私は死にますよ、きっとね」
母の手が震えているのをナイフを伝ってわかる。
「貴方がずっと望んでいたのでしょう?」
不思議とすらすらと、そんなふうに言葉を発することができる。
死ねるのなら、本望です。
「どうぞ?」
私の手を母の手に添えて、刃を滑らせていけば、首の頸動脈がある辺りにちくり、と痛みが走る。生暖かいものが、首を流れる。
「……ぃやっ」
母が声をあげ、柄から手を離そうとする。私の手で押さえつけていたお陰で、ナイフが引かれる。
首がすっぱり、と切られる感覚。首から血が流れていく。それは、病衣とシーツを赤く染めていく。
私はナイフを落とし、ベットに体を預ける。母は、顔を真っ青に染めて逃げるようにカーテンの外に出ていった。
頭の奥でどく、どく、と何かが流れる音がしている。
シーツに広がっていく赤を眺めながら、意識を投げた。
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