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翌々日には、家族に迎えられた天江さんは退院していった。そして、病室は私のベット以外空きになり、静かな病室になった。
と、言っても明日には新しい人が入ってくると看護士から聞いたのだが。
今日一日だけ、私一人。
朝食を食べ終え、淡島が持ってきたファンレターを消化していると、病室に誰かが入ってきたのを感じた。
「……悠」
「!!?」
ばさっ、と手に持っていた手紙が床に落ちる。
声のした後ろを見れば、そこにいたのはずっと会いたかった人。
「──雅斗、さん……」
彼が、いる。
「なん、」
「ごめん!」
なんでここに。そう言おうとしたところで、彼──雅斗さんは勢いよく頭を下げた。
「本当に、ごめん。俺がちゃんとしていないせいで、」
「雅斗さん、ちょ、」
頭を上げて。
そう言って、頭を上げた雅斗さんの顔はつらそうな面持ちで、私を見ている。
「なんで、そんな顔を……」
「本を、読んだんだ。悠が考えてること、まったく分かってなかった。もっと、考えてればこんなことには……」
久しぶりに見る雅斗さんの姿は、すこし痩せてしまって情けないように見えた。
「雅斗さんのせいじゃないです。私が勝手にしたことです。それに、雅斗さんは私と違って仕事が忙しいんですから」
「そんなの、関係ない。大切な人のことを考えることもできないなんて、」
"大切な人"
その言葉だけで、嬉しい気持ちに包まれる。
「本当に、ごめんな。こんな傷まで……」
雅斗さんの手が、私の首に巻かれた包帯に触れる。
「嬉しいです。私、雅斗、さんに、……嫌われたかと……」
捨てられたかもしれない。私がちゃんとしていないから。もう、会うことなど出来ないかもしれない。
毎日、毎晩。
気を抜くと、そんなことばかりを考えてしまう。
声が震えて、うまく伝えられているのか、不安になってくる。
ふわり、と懐かしい香りが私を包む。
雅斗さんの腕に包まれるのは、何よりも幸せだと思う。
「嫌いになるわけなどない。あの時は、言葉が足りなかった。ごめんな」
私は、雅斗さんと一日中沢山の話をした。
今までの空白を埋めるかのように。
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