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短編集として本に入れる話数は、5、6話の予定だと、淡島に伝えられていた。今のところ、添削され渡されたのは10話ほど。
全てを書き直し、淡島と相談しながら絞っていく。
〆切は特に決められておらず、ゆっくりしっかり作ればいい、と伝えられたが、個人的に少しでも早く完成させたかった。
ずっと執筆活動を停止していた。きっと待っている人もいるのだから。
書斎の机の上に原稿が積み上がり、置く場所がなければ、床に置かれていく。原稿用紙には、話ごとに目印として隅に色を塗って、バラバラになっても分かるようにしてある。
纏めるのは全部が終わってからで。それまでは足の踏み場もないくらいになる。
「んっ……ふぁぁあ……」
キリのいいところで、ペンをおいた。大きく背伸びをして、息を吐いた。
「あともう少し、かな」
ほとんどは書き直した。あと二日もあれば終わるだろう。
最近はペンが止まらなかったせいで、まともに睡眠を取れていなかった。
欠伸をひとつして、床に広がった原稿をなるべく踏まないようにして書斎を後にした。
久しぶりに感じるリビングでソファに座り、テレビの画面をつける。
そこまで大きな話題もなかったようで、いつものようにニュースを聞き流す。
なんとなく、雅斗さんの声が聞きたくて、スマートフォンに手を伸ばした。
ロックを解除して、雅斗さんの電話番号を選択、発信する。
コール音が何度か繰り返されて、雅斗さんの声が鼓膜を震わせた。
『悠?』
「うん」
『どうした? 何かあったか?』
「ううん、声が聞きたかったんだけど、今大丈夫?」
『あぁ、大丈夫だよ』
スピーカーからは、雅斗さん以外の音は聞こえず、きっと人のいないところにいるんだろう。
「休憩中?」
『あぁ、丁度休憩室に入ったところだよ。悠はちゃんと飯食べたか?』
「あ……」
忘れていた。
『はーるーかー? 食べてないなら、今すぐ何か口にしろよ』
「はーい」
少し笑いを含め返事をしたら、向こうからもくすくす、と声が聞こえた。
『今日は残業で少し遅くなるかもしれないけど、書くのも程々にしとけよ』
「うん、あと少しだから、もう少しやったら寝るよ」
『あぁ、それじゃ』
「うん」
通話が切れて、私はソファを立つ。
冷蔵庫から出したお茶をコップに注ぎ、昨夜の夕食で残ったポテトサラダを食べる。
あと少し。
欠伸をもうひとつして、書斎に足を向けた。
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