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最近、雅斗さんの帰りが遅い気がする。前は、遅くても夕食までには帰ってきてくれていた。残業もたまにあるくらいで、連日帰りが遅いなんてこと、滅多になかった。
今日も雅斗さんは、帰りが遅い。
夕食を作ってもう大分時間が経っているせいで、すっかりさめてしまった。
「雅斗さん……」
誰もいない自分だけのリビングで、名前を呟いても、ただ静かに空気に溶けていくだけ。
連絡すら来ないことに、いつもより大きな不安になってしまう。
どうしよう、もしかしたら何処かで連絡すら出来ない事に巻き込まれているのかもしれない。
あり得る状況が、脳内に複数浮かんでしまう。
怖い。
ただの想像だとしても、もしかしたら雅斗さんを失うかもしれない。
恐怖が大きく膨らんでいく。
体が震えて、目の奥が熱くなる。
ポロポロと目から涙が溢れて、嗚咽が零れた。
「うっ……ふぇ……」
こんなに、自分は弱かっただろうか。こんなに、自分は独りが怖かっただろうか。
失うのが、怖い。失いたくない。
涙を止めようと幾ら袖で拭ってみても、全く意味をなさず溢れ続ける。
「ふっ……く、……ま、さとさん……うぇ……」
ただ、泣き続けた。
『──ただいま』
どれくらい泣いていたのだろう。耳に届いたのは、雅斗さんの声。
弾かれるように立ち上がり、リビングを出た。
「雅斗さん……!!」
「うお、」
玄関で靴を脱ぐ雅斗さんの背中に、抱きついた。
雅斗さんだ。雅斗さん。
ほんもの。
「おかえりなさいぃ……」
泣いていたせいで、少し鼻声になってしまった。
「ただいま、悠。泣いてたのか?」
「だって……遅い、から。っ……事故にでも、遭ったんじゃないかっ……て……」
腕に力を込めて、顔を大きな背中に埋めれば、大好きな香りが鼻を擽る。
「ごめんな。渋滞に遭って、こんなに遅くなるとは思わなかったんだ」
「うー……心配、した……」
「ごめんごめん、連絡すればよかったな」
怖くて恐くて、震えが止まらなかった。
雅斗さんを失ってしまうかもしれないとも、考えた。雅斗さんを失ったら、もう生きる意味だって、失うかもしれないのに。
雅斗さんが無事でよかった。
安心で、一滴が零れた。
「ほら、悠。夕食まだなんだろ? 食べよう」
「や……」
「嫌って……」
あきれる声がするけど、今はくっついていたい。
「……離れたくない」
ぎゅうぅ、とさらに力を込めると、雅斗さんが声をこぼす。
「……ベットに、行こうか」
その言葉に、私は頷いた。
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