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「ありがとうございました」
小さな笑みをみせて京介は袋を客に渡す。
三十代後半だろうか。男は無造作にそれを受け取って店を出て行く。
京介はほぼ毎日、夕方の五時から二二時までコンビニ「イレブン」でバイトをしている。高校生の頃からバイトをはじめて、今年で五年目だ。
スタッフも店長も気さくで、いい環境だと思う。
客が途切れたところで京介はひっそりとため息を吐いた。
(相当、重症だな)
自分の落ち込みように苦悩していると、ふいに声をかけられた。
「めずらしいね、暗い顔」
明るい声でにこやかな笑みをみせた男に、京介は表情を変えないまま、どうもと会釈をした。
「何かあったの?」
「いえ、別に」
歯切れ悪くそう答えると、男はふうんとそっけない相槌を打つ。
「ね。いつ食事に付き合ってくれる?」
「は?」
男の言葉に京介は顔を顰めた。
そんな京介の反応に臆すことなく、男はさらに迫ってくる。
どうしてこの男はこんなに遠慮がないのだろうか。
「谷さん、少しいいですか」
横から店長の松風大輝が声をかけてきて、男はええ、と軽やかに頷いた。
京介は接客を続けながら店長と話す男をみつめる。
谷聖也は、京介がバイトで働いているコンビニ「イレブン」のSV(システムバイザー)として本部で働いている。
仕事内容は詳しいところまで分からないが、コンビニの売上やサポートをする役割らしい。
聖也はいくつかの店舗を巡回していて、ここもその中のひとつだった。
聖也がここの担当になったのは、ちょうど半年前。
-本部のシステムバイザー所属、谷聖也です。よろしくお願いします。
一八〇センチは超える長身に、細いなだらかな眉、切れ長の瞳には長いまつげが隠れていて、甘い顔立ちをした男はその印象通り声も甘かった。
聖也はアルバイトやパートの店員にも全て挨拶をして回り、名刺を渡していた。
二七歳という年齢にはみえない、透き通った肌の聖也は女が好きそうな美形だ。
だけど、聖也はなぜか京介に声をかけてきた。
「恋人いる?」
その軽い口ぶりに京介はいい気はしなかった。
「いませんけど」
正直にそう答えたのがまずかったと今は後悔している。
それからというものの、こうして聖也は事あるごとに京介を誘うのだ。
(いいかげん、諦めてくれないかな)
京介は吐息を漏らしてやり過ごす。聖也が来てからというものの、いつもこの調子で気が滅入る。
大失恋したばかりで当分恋愛などするつもりはない。
また健吾のことを思い出して、京介は長いため息を吐いたのだった。
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