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待ち合わせ時間の十分ほど前、京介が新宿駅の改札を出ると、すでに聖也がいた。
「こんばんは」
「こんばんは。よかった。来てくれたんだ」
ホッとしたような顔つきをして聖也は、頭を掻きながら言った。
「正直、来ないかもって思ってたんだ」
「そんな。約束したんだからきますよ」
そんな風に言われるとどう反応していいか分からなくなる。
「タダでうまいもんが食えるんですからね」
「あは、うん。たくさん食べて」
照れくさくてついそんなことを口走ったが、聖也は笑みをみせて頷いた。
聖也が連れてきてくれた店は和風の佇まいをした、高級そうな店だった。学生の京介がとても入れるような場所ではない。
のれんをくぐって中に入ると、着物を着た店員に迎えられる。
席も畳で掘りごたつの完全個室だ。
「どう?いいお店でしょ」
「え、ええ」
落ち着かなくて曖昧に返すと、聖也は余裕の笑みをみせてメニューを広げた。
値段を見ると肉もかなりの金額だった。
「なんでも好きなの注文して」
「え、でも」
「この黒毛和牛なんか美味しいよ」
一人前でこんな値段がするのかと戦々恐々して睨めっこしてしまう。
「あの、谷さんのおすすめで」
「あ、そう?お酒飲むよね。何がいい?」
「あ、じゃあビールで」
聖也はすぐに店員を呼びいくつか注文する。スマートなやり取りにすっかり感心してしまった。
「慣れてるんですね」
「そう?仕事の付き合いでたまに来るくらいだよ」
さらりと返されてしまい、京介は仏頂面でビールを煽った。
肉はどれも柔らかく美味しい。すき焼きのタレも甘くて食欲と酒が進んだ。
「さすが。若いだけあっていい食べっぷりだね」
にこにこと笑みを浮かべながら言われて、京介はわずかに眉を顰める。
「どうも」
「見ていて気持ちいいよ」
こっちとしてはあまりじっと見られながらというのは、どうも気が引けるが、聖也は気にした様子もなく観察するように京介を見据えていた。
(やりずらい)
思えば、誰かとこうして食事をするのは久しぶりかもしれない。健吾や朱実とたまに三人で飲みに行ったりはするが、二人でというのはなかった。
ふとまた健吾のことを思い出して目頭が熱くなる。
京介は誤魔化すようにビールを煽って、残りの肉を平らげた。
「最初、君を見たときキレイな子だなって思ったんだ」
ふいに聖也が口にして、京介は思わず訝しげな瞳で見据えた。
「積極的に仕事するし、いいスタッフだなって感心してた。笑顔も魅力的で。気づいたら目で追っていた」
優しい笑みを称えて語る聖也に、気恥ずかしくなってくる。
「そんな・・・・・・誉めすぎですよ」
顔をみれなくて、下を向いて口にする。
「軽い気持ちじゃないってこと伝えたくて」
そんな風に真剣に言われると、どうすればいいかわからない。
京介は鼓動の高なりをかすかに感じとった。それをごまかすためにビールを煽る。
動機はなかなか止むことがなく、京介は複雑な面持ちでやり過ごしたー。
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