アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
始まり
-
どうしてこんなことをするんだろう。
僕が何をしたっていうんだろう。
蔵本 暁ー以下、暁ーは草むらの中で一人探し物をしていた。
手は泥だらけで所々傷を負っており、長時間草むらに入っていたことが伺える。
草むらの外には空っぽになった鞄、その中は教科書があったであろう空間がぽっかりと開いていた。
暁の探し物というのは、鞄に入っていた教科書や筆箱などである。
暁は校内で1、2を争う学力の持ち主、言わば優等生である。
三年生になるまではずっと順位は1位で、誰からも恨まれることなく平和に過ごしていた。
だが、進級した途端に事件が起きた。
偶然、山上達と同じクラスになった。
偶然、答案用紙を返された時の先生からの誉め言葉を聞かれた。
偶然、教室で日直の仕事をしていた。
偶然…いや、わざとかもしれない。
昇降口に山上達が待ち伏せていた。
山上は暁から鞄をひったくり開けたかと思うと、中にあった物を全て草むらに放り投げた。
『教科書が無いと、明日からの授業困るよなぁ?優等生さんよぉ』
山上はそう言って笑いながら帰っていった。
一緒にいた村岡と片山も、わざと暁の鞄を踏み潰して笑って帰っていった。
その中で、何もせずにただ見ていた物静かな男子生徒、西城 東一ー以下、西城ーは暁を一瞥し、笑いもせずに帰った。
「…やっと、全部見つけた」
暁が鞄に入っていた物を全て見つけた頃には、もうすっかり暗くなっていた。
春とはいえ、夜は少し肌寒い。
「こんなに暗いから、もう食堂は閉まってるかな…」
暁の実家は学校から随分遠い所にある。
父親は、とある企業の社長で家が裕福だったこともあり、寮暮らしはー別の理由もあるがーあっさり認めてくれた。
寮で暮らしている学生は、暁のように裕福な者もいれば、お金を借りている者もいる。
「………」
暁は静かに寮の玄関の扉を開ける。
門限は特に決まって無いので、寮長が玄関で仁王立ちしている事はなかった。
とはいえ、時刻は22時。
何人かは寝ているか勉強の予習、復習をしているかもしれない。
(せめて、お風呂に入ろう…)
各室にシャワールームがあるのだが、冷えた体を温める為には湯に浸かりたかった。
風呂場が閉まるのは23時なので、暁は早足で静かに自室まで急いだ。
「ーーあ…」
風呂場のドアを開けると、そこにはすでに先客がいた。
眼鏡が無いため顔は見えないが、そこにいたのは西城だと認識した。
湯船に一人で静かに浸かっていた西城は、放課後の時と同様、暁を一瞥した。
「………」
しかし、すぐに目を逸らした。
暁の事は全く眼中にないと言うかのように、何もせず、ただただ湯船に浸かっていた。
ーー山上君達と行動を共にしているとはいえ、唯一何もしなかった人物なら今日の出来事を話してくれるかもしれない。
意を決して、暁は西城に話しかけた。
「あ、の…さいき、くん」
「………」
「えと、放課後、さ。どうして、山上君達はあんなことをしてきたの…?」
「………」
西城は何も言わなかった。
怒るわけでも、笑うわけでもなく、無表情で暁の言葉を聞いていた。
聞いているのかどうかも怪しいが。
西城と同じクラスになったのも三年生になってからだった。
背が高く、がたいも大きいので、何か部活をやっているのだろうと思ったのが第一印象。
それ以外は全くもって分からない。
見ての通り、本人が何も語ろうとしないのだ。
話しかけたのも今日が初めてだ。
そんな人物から理由を聞き出そうとすることが困難だった。
「…風呂」
「え?」
どこからか低い声が聞こえてきた。
それが西城の声だと認識するのに、次の言葉が出てくるまで気づかなかった。
「…入りに来たんじゃなかったのか」
「え、あ、は、入る…」
本来の目的を思い出した暁は、汚れた体を洗い、湯船に浸かった。
冷えた体が徐々に温まるのを感じ、頬が緩んだ。
「………」
「………」
無言。
静寂な時間がとても長く感じた。
暁は何をしたらいいか分からず、ふと目に入った西城の体を見つめた。
がたいがいいのは分かっていたが、全身にしっかりとした筋肉がついていた。
制服を着ている時はそうは見えなかったので、着やせするタイプなのだろう。
下半身の方にも目をやると、中心の物が視界に入り、顔を赤くして慌てて顔を背けた。
「…さっきの話」
「ひゃいっ!?」
いきなり話しかけられ、思わず変な声を出してしまった。
それに笑うこともなく、目線を合わせないまま西城は話を続けた。
「…俺も知らない」
「あ…そう、なんだ…」
話は聞いてもらっていたようで内心嬉しかったが、同時に何も分からないことにがっかりした。
ーーぐらり。
突然、暁の視界が傾いた。
心なしか、ボーッとする。
「あ、れ…?」
「………」
「あ、のぼせちゃったみたい…僕、もう出るね…」
フラフラと歩いて暁は風呂場を後にした。
西城は微動だにしなかった。
「ふぁっあ~…」
自室に戻った暁は、火照った体をベッドに投げ出した。
こんなに長い時間まで湯船に浸かったのは初めてかもしれない、それぐらい静かで時間を忘れてしまうほどだった。
(今、何時だろう…)
時計を見ると、もうすでに23時過ぎていた。
暁が風呂場を出たのは10分前、その後に西城が出た気配は無いので、最後までいたのだろう。
左隣の部屋からドアの開閉音が聞こえた。
廊下には誰もいなかったので、おそらく西城だろう。
(部屋、隣だったんだ…)
暁の部屋は一番奥で、隣人は左側だけだった。
しかし、その隣人があまりにも静かすぎる為、本当に人がいるのか不安になっていた。
(あんなに静かだったんだから、そりゃいるかどうか分からないよね…)
疲れと心地よい温かさにうとうとしてきた暁は、そのまま眠りについた。
(これで済んで明日からは何もなければいいな…)
しかし、暁は分かっていなかった。
ーー苛めは、この程度のものでは済まないと。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 18