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「たっだいまー」
事務所に戻れば先程仕事で出ていた奴らが帰ってきていて「お帰りー」と手を振る。
「なんだ、どっか行ってたのかお前」
ソファーに寝転がって雑誌を見ていた奥村蘭が起き上がり首を傾げ聞いてくる。
「おーちょっとな。てか蘭、お前また髪染めたなっ?」
昨日まで茶色だった筈の蘭の髪が変わってる事に気付き、手に持っていたカバンでぶん殴る。
「ってー! ぁにすんだよ貴文っ?」
「あにすんだじゃねーだろタコ! 俳優ってなぁイメージ第一なんだぞ? わかって んのかこのバカ!」
さらりと肩の辺りまで伸ばされた少しクセのついた髪は綺麗な空色に染まっていた。別に似合わない訳じゃないがこいつの今年18になるのに15・6にしか見えない容姿じゃちょっと道を踏み外したガキにし か見えない。
「トナミだってスカイブルーに染めてんじゃんよ。しかもシルバーのメッシュまでいれてんしよー。俺は単色なのに何で殴られんだよ!」
「あいつはいいの、あれがチャームポイントって浸透してるし」
「俺だってそうなるかもだろ。イメチェンだよイメチェン」
「お前はせいぜい気が狂ったと思われるだけだろうよ」
「なんっだよそれっ?」
ただでさえこいつスーツが好きだっつってスーツばっか来てて見た目どこぞのホストなのに、さらに輪をかけてホストにしかみえなくなっちまったじゃないか。
「ったく、美月に何か言われても言い訳してやんないからな」
投げる様にカバンを置くと取締役と札の置かれた席に腰を落ち着ける。それと同時 だったか今まで我関せずと蘭の向かいのソファーでポテチだのチョコレートだのの菓子を広げて漫画を読んでた一人「あっ」 と声を上げた。
「どした悠太?」
崎原悠太。SAGINの中でトナミに次いでワガママ好き放題のメンバーだ。
「そういや樹がさ、今日現場からまんま家に帰らせてくれってさ」
「え、何でだよ」
首を傾げ問い返せば、悠太の隣に腰かけたシーナ・セドリック・ミラグロスが今時珍しい黒渕眼鏡の奥から空色の視線を此方へと向け「咲湖おばあさま、バースディだから」と、たどたどしい日本語でポツリと答える。
「そうそう、だから皆でお祝いの準備するから早く帰りたいんだってさ」
「あぁそっか、今日だっけ」
咲湖さんってのはうちで経理事務をやってくれてる神宮実さんの奥さんで、俺も小さい頃から世話になってる人だ。SAGINのメインボーカルを務める樹は六つ上のお姉さん共々その神宮さんちで育ったらしいから、謂わば母親みたいな人だといっていた。
ちみに余談だがシーナの義理の祖母でもあるわけだが、今年48になるにも関わらず二十代にしか見えないという化け………いやいや、美人なお姉さまだ。
「けど大丈夫かよ一人でなんて。確か今日の現場って神宮家まで車で一時間はかかるはずだぞ」
「実お祖父様、迎えいった」
「んでそのまま帰宅するからよろしくだって」
「何!?」
バッとスタッフの出退勤を記入するボードを見れば、神宮実の欄にデカデカとハー トマークが書かれているのを発見。そのマークの中には「帰宅」とだけ書かれていた。
「ふざっけんな! どうすんだよ今日の夜のアポって実さんの紹介なんだぞ!? 仲介者なしで会えってのかよ!!」
亀テレの新田さんだよ新田さん! 実さんの昔っからの顔馴染みだからって話つけてもらったのに俺一人で会えってのか?
「実お祖父様は咲湖おばあさま一番、だから」
しれっとシーナから言葉が返って来て俺は机に力尽きるようにへにゃりと突っ伏した。
いや、そりゃあの人らが今でも新婚さんよろしく仲睦まじいのは俺も知ってるけどさぁ。けどおいてかれる俺の身にもなってくれよ……。
「どーすんだよぉ、俺まだタレントの売り込みとか勉強中なんだぜ? 俺が出来る仕事といや電話番と依頼品受け取ったりさぁ、そんなのしか出来ないっつーのに一人で大手テレビ局のプロデューサーと会えとかってぇ……」
るるる~と涙をこぼしながらブツブツと並べ立てていく。どうしよう、もしオイタしてこいつらが出禁とかになったら。ああっ考えるだけで恐ろしい! けど、そんな心配は悠太のただ一言に救われる事となる。
「亀テレの新田さんなら俺知ってるし一緒に行ってやろうか?」
「え!?」
「あの人前に兄貴のマネージャーやってたんだ。けっこう前だけど。だから俺も顔見知りなんだよ。な、シーナ」
「うん」
「え、マジでそれほんとにか?」
そういやこいつんとこって親兄弟全員芸能界関係者だっけ。それならめっちゃ助かるんだけど。
「どうせ俺らの仕事貰いにいく話なんだろ? だったら俺らも着いてっていーんだよな」
「そりゃ、まぁ大丈夫だと思うけど」
「何時から?」
「5時に亀テレ」
「ふーん」
頷きながら壁掛け時計の時間を確認すとニヤリと笑みをつくった。そして
「まぁ時間的に夕飯って感じだよな。て事で俺チーズバーガーセットね。あ、コーラとポテトはもちLサイズ」
なんて言ってよこしたんだ。
「はぁ?」
「そりゃお仕事のお手伝いするんだしぃ? 当然の見返りってゆーか」
「お前ねぇ、俺らの仕事をもらうためだぞ。わかってんのかよオイ」
これには流石に蘭も呆れたように悠太をたしなめる。けれど生年が芸歴であり度胸が座りまくってる悠太にそんな言葉が通じるはずもなく……。
「んなのわかってるって。確実に仕事をゲットするにはやっぱ鋭気を養わなくっちゃって言ってんの」
「それがチーズバーガーセットだって?」
しかもLサイズって。俺でさえSサイズで我慢してんのに! いや、でもこいつらには安い賃金で頑張ってもらってるし、チー ズバーガーセットくらいは……。
電車賃ケチって二日間学校まで徒歩で行きゃなんとか。
芸能事務所取締役だっつっても普段の俺はただの高校二年生。勿論小遣い制(毎月月始めに実さんからもらう)な訳なんだが。それで学校迄の交通費もまかわなきゃならないから結構大変なんだよなぁ。
「せ、せめてコーラとポテトはMで……」
「無理、Lじゃないと足りない。ほら、俺外国育ちだから通常サイズがここで言うLなんだよね~」
揉みてをしながらの申し出にも即答で返され口端がぴくぴくとひきつる。
くっそー足元見てやがるなこいつ……。あー今月新しいバイクの部品買う予定だったのに。
にやにや笑いながら俺の答えを待っている悠太。その顔がもうこ憎たらしいのなんのって!
けど背に腹は代えられない。諦めた俺は「あーもうわかったよ!」と苛立たしげに頭をかきむしり浮かせた腰をイスへと納め直した。
「商談成立」
ニシシッと小悪魔的な笑いをもらす悠太をじと目で見ながら、今時の十四歳は怖いなんてため息をついた。
「そういやシャチョーどこ行ってたのさ。トナミも今日午後からだっていってたのにいないし」
「あートナミなら多分鈴音さんとこだと思うけど。俺は色々挨拶と市場調査……あ、そうそう」
ポンと手を叩いてカバンをあさりはじめた俺に三人の視線が集まる。
「お前らにさ、ちょっと」
「え、なになに?」
「なんか土産でも買って来たのか?」
蘭と悠太が興味深々と行った風に周りを囲うように近付いてくる。
「へっへへ、実はさ……ん?」
あ、れ? 確かにカバンのうちポケットに入れたはずなんだけどデモMD……。
ゴソゴソ。 ゴソゴソゴソ。 ゴソゴソゴソゴソ……。
「ちょっと待て」
カバンの下を持つとそのまま机の上に中の物をぶちまける。
携帯、財布、スケジュール帳に家と事務所と単車の鍵。そしてライターにタバ……これはカバンに再度しまってと、うん。この二つはダメダメ。
「ない……ない、ない、ないーっっ」
頭を抱え突然叫び声を上げた俺に、三人がぱちくりと瞳を瞬かせた。
「え? なに、どうしたのさシャチョー」
「お、おい貴文?」
「ないんだよ!」
「だから何がだって」
「お前らへのっ……ああっクソ! どこで落としたんだ。確かにカバンに入れたはずなのに!!」
もう俺はパニックパニック。だって無くしたもの、それは他でもないSAGINの新曲のデモが入ったMDなんだから。
「とりあえず落ち着けって、な」
蘭に肩をおさえられてその場へ腰を下ろす。頭の中はぐるぐる、こめかみには汗が伝ってる。
何で、何でだ。一体どこで落とすってんだよ? はっ! まさか昼間によったあの店? ……いや、あそこではカバンから出さなかったはず。じゃあどこで?
「う……うあーっ俺のバカヤローッッ」
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