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追想
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「なんで、いないんだよ……っ」
「だから言ってるじゃん。あと少しで帰ってくるって言ったら速攻で出ていったよって」
わかってるよ。
そう叫びそうになってあわてて口を閉じる。
「……そうだよな、研磨に当たってもしょうがないし、な…」
傷ついてしまった好きな人を癒す一番の言葉はなんだろうか。
ツッキーは俺の腕には抱けないから、言葉で癒して、新しい恋を――その相手が男でも女でも――応援しようと、たった今決心したはずなのに。
「……はは………っ、考えたら俺、超かっこわりーじゃん……っ」
こぼれそうな涙を笑顔で押さえ込む。
苦しい。
けど、こうやって笑ってさえいれば、きっと。
きっと、全部消えてなくなるから。
黙っていた研磨がクロと呼んでくる。
「………大丈夫だって。どうせ試合で会うんだし、そんときにでも様子見てみるからさ」
いつもみたいに、感情なんて読ませないで笑っていれば大丈夫。
この東京でなんて、何もなかったみたいに。
ツッキーの泣き顔も痛みも知らないみたいに。
「………じゃあ、今クロはなんのために泣くの?」
俺を引き戻したのは、小さい頃から一緒にいる弟みたいな存在。
結局涙がこぼれてしまっていることを指摘した研磨の顔は俺よりひどいんじゃないかってくらい歪んでいて、思わずその目を凝視する。
「俺はクロであろうが恋愛なんて興味ない。
でも、今のクロは見てるだけでつらい。
月島のこと好きなら追いかければいいんだ、みっともなくても追いかけてつかまえて、何回だって好きって言えばいい」
長い言葉を喋ったことで疲れたのか、研磨がうつむく。
「………………じゃないと、そんなの報われないじゃん…………」
裏表のない研磨の言葉が背中を押す。
「研磨、あんがとな」
それだけ声をかけて、部屋を飛び出す。
間に合えと、それだけを胸に抱いて。
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