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俺の隊長サマ。
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あの日はたしか、卒業式の次の日だった。
俺たちのクラスは、形式的にはたった昨日に永遠の別れを告げあったにもかかわらず、
誰からともなく言ったカラオケにクラスのほとんどがいくことになった。
もちろん青史も行くとみんなに言っていたが、俺はあまり乗り気ではなかった。
そんな俺に、クラスのみんなは俺をはやしたてながらも俺に『最後になるかもしれないから』と説得してきた。
押しに弱い俺は首を縦に振ってしまって。
そのときははやく帰りたくてしかたなくて半分投げやりだった、というのもあるけど…
だってやっと受験も学校も終わるんだもん。
はやく帰って犬のタロウと遊びたかった。
そしてそのウワサをどこで聞きつけたのか、それとも最初から聞いていたのか、
卒業証書を手にする俺を見つけ手を振る藤本が校門で待ち受けていた。
まわりの名も知らない生徒たちが口々に俺の名を呼ぶなか、俺は藤本も含めてすべてシカトしながら校門を抜けた。
だが、他の生徒とちがい、藤本は俺のうしろにひっついて離れなかった。
「音無先輩! 卒業おめでとうございます」
「…あぁ」
「いやーなんだか信じられませんよ。
これで音無先輩の親衛隊隊長は終わりなんですねぇ」
「……」
「あ、ところで明日、音無先輩にしては珍しくクラスの皆さんでカラオケに行かれるとか!」
「…!」
驚いて思わず足を一瞬止めたけど、すぐにまた歩き出す。
「いいですよね! カラオケ。
俺もカラオケ行きたいなー」
「…絶対くんな」
「え、ダメですか?
先輩のきれいな歌声聞けるチャンスなのに」
「うるさい。絶対くんな」
俺の歌声なんて聞いてどうすんだ。
別にうまくないし、俺が歌ったらみんなシラケるから嫌なんだよ。
それにコイツの前で歌いたくなんかない。
「えー。先輩、後輩に冷たいですよ?
ま、そんな先輩が好きなんですけどね」
「うるさい。帰って」
「ふふふ、はいはい。帰りますよ。
先輩、お元気で。また、会いましょうね」
そう言って一つ分の足音が止まった。
結局一度も藤本を見なかった俺は、気づいていなかった。
藤本が無表情だったことに。
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