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スキなんです。
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…………
「水垣くん」
「はい」
動かしていた手を止め、キィと音を立てて振り返った。
思ったとおり藤本部長がいつもの笑顔で立っていた。
彼はスーツのポケットに手を突っ込むと、小さく折りたたまれたメモを取り出して俺のデスクに置いた。
「さっきの件のクライアントからだよ。
またしばらくしたら連絡よろしく」
「はい」
返事をしながらメモをひらくと、几帳面な字でクライアントの連絡先が書いてあった。
部長はそれを確認するとすぐに離れていった。
メモを取り出したときにチラリと見えた手首の傷あとがまだ新しかった。
夢ではなかったのだと、震撼させられるのは、それだけではない。
俺はデスクに向き直るふりをして、ナナメうしろの席を見やった。
黙々と作業する青史がいた。
それはたしかにいつもの青史で、話しかけたらまた笑ってくれそうな気がする。
少なくともまわりには、俺たちの間に何かがあったなんて見えている人はいないだろう。
昼ごはんも一緒に食べたし、いつものように明るい調子で話しかけてくる。
だけど、今日は一度も…触れられていない。
ヘンな話しかもしれないけど、俺たちは毎日なんらかの形で触れ合っていたのだ。
もちろんおどけながら抱きしめられたこともあったし、仕事でがんばったときは隠れて頭を撫でてくれたりもした。
俺は恥ずかしくてその度に軽くながしていたけど、内心はものすごく救われていたのだ。
青史がいる。
それだけで、生きていける気がしていた。
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