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スキなんです。
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「ふぅ…」
作業があらかた片付いて、俺は凝り固まった肩を回しながら壁の時計を見やった。
まわりの社員もぼちぼち帰り出す時間だった。
ついでに凛太朗を探すと、まだ作業に追われているようだった。
「凛太朗。終わりそう?
俺、もうそろそろ帰ろうと思うんだけど」
「あ、先輩!
すいません、今日はちょっと…」
「うん、分かった。じゃあお先に」
「お疲れ様でした〜」
デスクに散らばっていた文具や資料を軽く片付けてカバンを持った。
「ではお先失礼しますー!」
残りの社員全体に軽く呼びかけると、パラパラと挨拶が返ってきた。
会社を出ると、すっかり日が落ちてネオンの光が眩しかった。
こういう1人の退社はどうしても水音のことが思い浮かぶ。
あの事件以来、水音は姿を消した。
まるで霧かなにかのように、音もなく消えた。
家に帰っても誰もいないということがどうしようもなく寂しくて、はじめのうちは凛太朗の退社時間にわざと合わせたりもしていた。
誰でもいいからそばにいて欲しかった。
そして次に思い出すのは青史。
こんなとき、青史はなんやかんや理由をつけてよく泊まりに来てくれたりもした。
学生時代のなごりだ。なつかしい。
そんなことを考えながらも気がつけば我が家の前に立っていた。
手慣れた手つきでカギを取り出してから、ドアに向けたときだった。
なにか弾力のあるものが爪先に当たった。
光の加減でよく見えない。
しゃがみこんでケータイのライトで照らしてみる。
映ったのは真っ白な毛並みのネコだった。
思わずギョッとするほどぐったりしていて、あらわになっている横腹には骨のかたちがしっかり見て取れた。
「フシャー!」
それでも弱々しく立ち上がり威嚇してくる。
捨てネコだろうか。ふさふさとした毛並みはノラにしては綺麗に思えた。
気がつけば、俺はそのネコを抱きかかえ、ツマミ用のホタテを与えていた。
電気もロクにつけないまま、ネコが一心にホタテにむしゃぶりつく様子を見つめていた。
そうとうおなかが空いていたのだろう。
アッという間に平らげると、もっともっととすり寄ってきた。
さっきとはまるで態度がちがうな、なんて苦笑しながらも夕食に食べるはずだったシャケの切り身を皿に置いた。
ネコはしばらくクンクンしていたが、すぐにそれに食いついた。
うまそうだな、なんて他人事みたいに思った。
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