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あれから一週間経った。特に不自由を感じる事なく、この屋敷では生活を送っている。
「庭園を見て来てもいいですか?」
侍女のメアリーに尋ねると、快く案内してくれた。メアリーは同じ年頃の女の子で、ピンク色の髪に頭には小さな二本のツノが生えている。
いつもニコニコと笑っている可愛らしい女の子だ。
シド様とアルフさんには距離を置かれているが、メアリーは俺にも友好的だ。
屋敷の中にこういう人がいてくれるだけで、俺としてはとても嬉しい。
「エリック様、もし宜しければお茶のご用意も致しますが?」
「じゃあお願いします。メアリーの入れる紅茶は美味しいですし」
にこりと笑うと、少し照れた様子で、紅茶の準備をし始めた。
それにしてもここの庭園は本当に綺麗だ。
手入れがきちんとされ、品種別できちんと管理されている。
初日に訪れたのだが、とても感動し、あれから1週間毎日通っている。
正直、屋敷の中にいるよりここにいた方が落ち着くのだ。
「あっ、ミザリー!こんにちは」
「あんたまた来たの?本当におかしな人間ね」
紫の綺麗な花にパチリと二つの目がつく。
初めて見た時はとても驚いたが、おしゃべりなので、屋敷の人たちのことを色々と話してくれる。
屋敷の情報を仕入れるにはうってつけの存在だ。
「ミザリーと話すのは楽しいので。今日はお水は飲みましたか?」
「まだよ!庭師のグレイグが、エステアとイチャコラしててさぼってるのよ。全く、シド様がいらしたら、告げ口してやるんだから!」
エステアとはこの屋敷の侍女の一人で、庭師のグレイグの彼女らしい。庭師のグレイグはさぼりぐせがあるようで、ミザリーがよく愚痴をこぼしている。
ただ、俺からすると、この立派な庭園を維持するのにグレイグがどれ程手入れに時間をかけているのかはなんとなくわかるので、ミザリーはきっと構ってもらえないことで拗ねているのだ。
「まあまあ、今日は俺がお水を撒くので、グレイグの事は許してあげてください」
「えっ、エリック様が!?ミザリーのお水は私がやりますので、お待ち下さい」
「実家でもやってたから大丈夫です!メアリーはそこで待っていてください!」
何度か庭園のみずやりをやらせてもらっていたので、納屋の場所はバッチリ把握している。
「メアリーはそこでじっとしてなさい。エリックにやってもらうから。女はねぇ、男に愛でられるほど美しく咲くものなのよ、全くメアリーはおこちゃまなんだから」
「……さっきまでグレイグ、グレイグ言ってたのに、調子がいいんだから」
メアリーはミザリーの高飛車な態度に苦笑いをした。
水を撒いてやると、とても気持ちよさそうにハミングするミザリー。
女は潤いが命だと前に話していたが、この水分補給の時間はミザリーにとって至福の時間らしい。
「それよりエリック。シド様とはお話しできたの?」
「1週間経つけど、顔すら合わせてないんです。食事もいつも1人ですし、ここまでくると俺と会わないように時間をずらしてるとしか…」
「そんなことないですよ!シド様はとてもお忙しい方なので…お食事を摂らない日もあるみたいですし。お身体がとても心配ですわ」
メアリーが心配そうな様子で屋敷を見つめる。
一瞬しか会ったことないけれど、仕事中心で生活している様子は目に浮かぶ。
「食事を摂らないのは確かに心配ですね…軽食などは作らないのですか?」
「何度か作ったことはあるみたいですが、手をつけていなかったようなのです」
病弱な自分からしたら、食事を摂らないなんてあり得ないことだ。
魔族は人間よりも丈夫と聞くが、それでも食事は大切なものだと思う。
できることなら自分が差し入れしてあげたいが、初日のように追い出されるのがオチであろう。
「アルフさんならシド様のお部屋に入れますよね?あとで俺からもお願いしてみます」
「そうね、シド様が倒れたなんて聞いたら私も枯れちゃうわ。エリック、なんとかして頂戴」
「うーん…アルフ様は承諾してくださるかしら」
メアリーが不安そうな表情でこちらを見る。
なんとなく言いたい事が理解できてしまい、俺も思わず苦笑いした。
あの人はシド様には忠実だけれども、周りの人には手厳しそうだからな。
特に、俺への対応が厳しいのだが。
けれども、シド様のお身体のことだったらアルフさんも心配しているはずだし、納得してくれるだろう。
*
「シド様がご希望されていないものをこちらで用意するのですか?」
冷ややかな目がとてもつらい。
言葉には出さないが、邪魔をするつもりかという苛立ちがビシバシ伝わってくる。
視界の端に映るメアリーも心配そうな表情でこちらをみている。
「お仕事の邪魔をするつもりはありません。一口でもいいので何か召し上がっていただきたいんです…屋敷の皆さんが心配しています。アルフさんだってシド様のお身体は心配でしょう?」
「それは当然ですが…」
「ではアルフさんからシド様に差し入れしてください。今晩お持ちするので宜しくお願いします」
少し驚いた様子のアルフさんに一礼し、その場を離れる。
言い返される前に退散するのがベストだとアルフさんから学んだ。
「エリック様、宜しかったのですか?アルフ様が般若の様な顔をしておりましたが!私怖すぎてあの場にいるのが恐ろしかったです」
「アルフさんは俺のことあまり好きじゃないですからね。メアリーに怖い思いをさせてごめんね」
「そんなことありませんよ!それに、エリック様が謝ることではありません」
メアリーは必死に否定してくれるが、たぶん自分の予想は間違っていないだろう。
人間のことを苦手とする魔族はゼロではない。
それは人間も同じだ。
けれどもアルフさんは、自分の主人のために苦手な俺とも接してくれている。
怖いけど、それだけで十分である。
「ありがとうございます、メアリー。そうだ、キッチンに行きましょうか。シド様の食事に使う材料があるか聞かないと」
「え、エリック様がお作りになるんですか!?」
メアリーが驚いた様子で立ち止まる。
確かに公爵家の長男がキッチンで料理をするなんてあり得ないかもしれないが、病弱で家からあまり出なかった俺は、度々料理を作っては、家族に振る舞っていた。
最初は母上に酷く反対されたが、父上が将来は俺に嫁ぐんだから花嫁修行でいいじゃないかと言って、とても喜んでいたっけ。
俺の料理は、ハンバード家とある一部の人間の秘密の一つだったりする。
今考えると、父上もだいぶ親バカである。
「料理人にお任せすれば大丈夫ですよ」
「俺の勝手なお願いで、皆に迷惑はかけられないですよ。それに、料理には自信があります。外の方には内緒にしてくださいね。一応公爵家の長男坊なので」
困ったように笑うと、メアリーは何度も頷いてキッチンに付き添ってくれた。
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