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広間に戻ろうとフリードと廊下に出ると、こちらを見つめる冷たい瞳と遭遇した。
「...ハイドリッヒ公爵。少しの間、エリックをお借りしていましたよ」
フリードが俺を庇うような形で一歩前に出る。
「いえいえ、エリックとフリード殿下がご友人なのは存じ上げておりますので。ですが、我が魔王陛下へのご挨拶が済んでおりません。彼をお返し頂けますか?」
シド様が右手を差し出して、ちらりと俺を見た。
促されるように一歩前に出たところでフリードに腕を掴まれる。
「エリック…また君に会いに行くからね」
顔を近づけて耳元でそう囁くと、リップ音を鳴らして離れていった。
先ほどまでのフリードとの行為を思い出し、顔に熱が集まる。
ちらりとシド様を見ると、表情ひとつ変わらない。
今の...どう思われただろう
...すごく居心地が悪い
顔を見られぬように俯いていると、シド様が手をとって歩き始めた。
突然のことに驚いていると、俺の腰をぐいっと引き寄せる。
えっ…な、何
見上げれば、眉間に何重ものシワを寄せてイライラしている様子。
勝手に広間を抜け出したから怒っているんだ。
...殺されるんじゃないだろうか。
ひやりと汗が流れる。
「お前はあの場でじっと待つことも出来ないのか?なんのためにここにきたと思っている」
「すみません。フリード殿下との話が思いの外盛り上がってしまって…」
甘い声で囁かれ、可愛がられていたなんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。
「これから魔王陛下に挨拶をする。無駄口はたたかぬように」
玉座の前まで行くと、談笑中だった男達が俺達に気づいたのか、一斉にこちらに視線を向けた。
輪の中心に座る男を見て、身体にピシリと緊張が伝わる。
白い肌に映える濃紺の髪、端正な顔立ちにもハッとさせられるが、吸い込まれてしまいそうな不思議な輝きを見せるその黒い瞳がとても印象的だった。
心の奥底まで覗かれているようで何故だか怖い。
じわじわと身体を侵食されていくようだ。
全身に身に纏う黒が、さらにこの人の支配力を誇示しているようにも見えた。
本当に怖いくらいに綺麗な人だ…
組んでいた長い脚を下ろしこちらに近づいてくると、俺の顎を掴みあげる。
「君が噂のエリックか。噂以上に美しいな…」
噂ってなんだろう…
ゆっくりと俺の耳元に唇を寄せると、甘く低い声で囁いた。
「実に俺好みだ……」
思いもよらぬ言葉に目を見開いて固まる。
「結婚おめでとう…シドにこんな可愛い奥さんなんて勿体ないねぇ」
俺から視線を外した陛下は、シド様の肩をポンポンと叩くとニヤニヤとやらしい顔をして様子を窺っている。
「お前は本当に堅いんだから」
ため息をつく陛下と視線が合う。
「俺は第47代魔王エルロット・フォンビネール。今後ともよろしくねエリック…そうそう、2人の夫婦生活はどうなんだい?詳しく知りたいな」
「えっ…夫婦生活?」
まともに顔を合わせていない挙句、会話すらほとんどしたことがないけれども、この場合はどうしたらいいんだろうか。
ちらりとシド様を窺ってみると、視線が交わった。
「陛下、まだ私達は夫婦になってから日が浅い。陛下が楽しく聞けるようなものは持ち合わせておりません」
シド様がいつもと変わらぬ態度で淡々と答えると、エルロット陛下はニヤニヤと笑い始めた。
「そう…じゃあちゃんと初夜も過ごしたのかな?こんな可愛い子が近くにいて我慢できるわけないよねぇ。でも…それにしては2人ともぎこちないように見えるんだけど。それともシド、EDのせいでやっぱり勃たなかったのかなぁ?」
公の場だというのに卑猥な言葉を何度も発するエルロット陛下。
どうやらこの人はシド様をからかって遊ぶのが好きなようだ。
ちらりとシド様を見れば、癪に障るのか、とんでもなく怖い顔で陛下を睨んでいる。
「公共の場でそういう下品な言葉を使うのはやめて頂きたい。それと夫婦の営みについて他人が口を出すのはやめた方がいいかと…他人から野蛮な奴だと思われますよ」
「へぇ…でも誰かが色々言わないと、君の場合は他人への興味が薄いじゃない。夫婦ってどんな意味か知ってるかい?」
誰かエルロット陛下の口を止めてくれないだろうか。
エルロット陛下が口を開く度に、シド様の機嫌がどんどん悪くなり、この場の空気が重たくなってくる。
誰か……助けて
*
帰りの馬車の中は凄まじく空気が悪かった。
重いとかそんな軽い言葉では言い表せない。これは地獄だ。
「お前がきちんと待っていなかったせいで、結局陛下にしか挨拶ができなかった。最初にきちんと話したはずだ。俺の邪魔はするなと。お前は人の言葉をきちんと記憶することもできないのか」
珍しく饒舌なシド様。
ただし、話の内容は全て俺への非難だけれども。
「…以後、気をつけます」
そんなに責めるのなら最初から一緒に挨拶すれば良かったのに...とは怖くて言えない。
しかし、無意識にため息をついてしまったようで、シド様の指が俺の顎を掴んだ。
「…何か不満でもあるのか?」
「た、ただ疲れただけです」
じっと探るようにこちらを見るその瞳を直視出来ず、思わず顔を逸らしてしまうと、思いのほか簡単にパッと手が離れた。
「今後俺の邪魔をするようなら、お前の自由はないと思え」
「邪魔をした覚えはないのですが…」
思わず口に出してしまった言葉にハッと気付いて口元を押さえる。
しまった...ついつい本音が漏れてしまった。
「やはり不満があるようではないか」
恐る恐るシド様の顔を見ると、ニヤリと笑ってこちらを見ていた。
意外だ...いつものように眉間にシワを寄せていると思ったのに。
「シド様には、何か考えがあるのかもしれません。俺も特別な干渉をするつもりはないです。ですが、パートナーとして付き添ったにも関わらず、親交のある方に紹介して頂けないのは、何か違うと思います。政治的な利用価値があると思って俺と結婚したんですよね?」
漏れ出た言葉は一度出てしまうと溢れて止まらない。
この人とは一度、ちゃんと言葉を交わさなければと思っていた。
このままいつも通りに屋敷に戻ったら、顔も見ぬ日がまた続いていく。
話すなら今しかない。
「それはお前が広間を抜けたせいだと…」
「最初から二人で挨拶に行くこともできました。俺にだけ責任を求めるのは何か違う気がします」
.......言ってしまった。ベラベラと話してしまった。
ちょっと言い過ぎたかもしれない。
シド様はそんな俺の言葉に右眉をピクリと動かすだけで腕を組んでこちらをじっと見据えている。
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