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そんなある日、テレビドラマの製作会社の名刺を持った男が、俺を尋ねて来た。
なんと、ドラマのオーディションの誘いだった。
脇役に無名の舞台俳優を起用して脚光をあびさせることで有名な連続ドラマだった。
劇団中が色めき立った。
テレビ。俺は正直腰がひけた。勝手が違い過ぎてどうしていいかわからない。
だがすごいすごいと手放しで喜んでいる藤川を見ていると、
こいつの前を歩いていたいという思いがつのる。
「わかりました。ぜひ、挑戦させてください。」制作会社のひとに返事をした。
オーディション会場には、全国の劇団から集められた猛者が勢揃いしていた。
さすがに緊張感がすさまじい。
入り口でわたされた番号順にひとりづつ部屋に呼ばれる。
横長に並べた机の前に、数人が座って一斉にこっちを見る。
横隔膜がきゅっとあがり、喉がつまりそうになった。
「佐伯丈太郎です。宜しくお願いします。」なんとか声が裏返らずにすんだ。
「では、始めて下さい。」
あらかじめ渡されていた台本は、読むだけで恥ずかしくなるような
時代がかったメロドラマだった。
審査員席の中央に、監督とプロデューサーに挟まれるようにして居心地悪そうに座ってる女の子。
彼女がどうやら主演女優らしかった。
女優といっても、演技経験はほとんど無いに等しい。新人のお嬢さんだ。
オーディションを勝ち取ろう、なんて考えたら平常心ではとてもいられない。
結果はあたって砕けろということにして、今はあのお嬢さんの心に語りかけようと思った。
舞台じゃないから、オーバーなアクションはいらないだろう。
俺の言葉を聞くのは、そう・・・。
今、離れたくない。ずっとそばにいたい。いつもいつも、笑っていてほしいひと。
あ。・・・・我ながら末期症状だ。女の子が藤川に見えてきた。
俺は演技をはじめながらいつのまにか彼のことを考え始めてしまった。
「いとおしい人よ。どうか私の想いを聞いて欲しい。」
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