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ママがつっと立ち上がり、厨房に行ったと思うと、赤い液体の入ったグラスを持って戻って来た。
「はい。丈ちゃんはそろそろこっち。」
「ええ~。今日くらい飲ませてよ。」
「だめよ。あんたは大病してるんだから。」
俺はしぶしぶトマトジュースのグラスを受け取った。
マコちゃんが驚いたように俺の顔を見たので
「もうね、大丈夫なんだよ。でも一時期は、ほんとにヤバかったんだ。」
と笑って言った。
藤川と出会って2年目の春。俺たちは相変わらずの日々を送っていた。
あ、聞かれなければスルーしようと思ってたんだけど。
例のオーディションは残念ながら不合格だった。
まあ、あれで受かったら話が上手すぎる。
だが、制作会社の人によると、けっこういい線はいってたらしく、
特に主演の女の子は俺を一押しだったそうだ。
それもあるのか、小さな役だけれどドラマに使ってもらって、テレビの世界も経験できた。
勝手はちがうけれど、やはり演じる楽しさは共通していて、やりがいがあった。
劇団員たちからは「ブレイク寸前」とか冷やかされたりしたが、
顔が売れるとかより、いまは素直に新しい挑戦が楽しい、そんな気分だった。
藤川に感化されて、俺もすっかり初心に帰っちゃったのかな。
その藤川は相変わらず、舞台衣装に埋もれつつ、稽古に励んでいた。
中でもやはり殺陣が面白いらしく、いつの間にか時代劇の撮影所に見学に行ったり
しているようだった。
「ジョーさん、スゴいんですよ。つるぎ会いうて、斬られ役ばっかりの集団が
いたはるんですけど」
ある日見学から帰ってくるなり興奮ぎみに話し出したので何かと思ったら。
「みんなめちゃくちゃ人相悪いんですよ。自分まだまだやなあ、思いました。」
立ち回りがすごいとかじゃなくて、そこか。
けれど目をキラキラさせて楽しそうに話す藤川を見てるのは、
本当に幸せな時間だった。
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